研究課題/領域番号 |
18K13934
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高橋 朋子 東京大学, 生産技術研究所, 特任助教 (20806301)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 海中粒子 / 深海その場化学センサ開発 |
研究実績の概要 |
レーザー分光分析技術を応用し、深海その場での迅速な粒子化学計測手法を実現するための技術検討が目的である。ラマン分光分析の派生技術であるCoherent anti-Stokes Raman Spectroscopy(CARS)によりバイオサンプルの高精度・高速なイメージングを成功させて研究分野をリードしている、サウサンプトン大学の施設で実験を行った。実験は2つのセットアップで行った。一つは広い領域を高速でスキャニングできるが測定波長の変換に1分程度かかるシステム、もう一つは測定波長を瞬時に変換できる一方スキャニング領域が狭いシステムである。海中に浮遊していることがわかっているマイクロプラスチック標準試料を乾燥状態で測定して、レーザー出力や測定条件の最適化を行った。次に海水中で測定を行い乾燥状態との測定結果と比較したところ、2つのセットアップとも測定結果にほぼ違いがなく、信号強度に水の影響がないことがわかった。さらに、広い領域を計測できるセットアップで、海水中に粒子を流した状態でスキャニングし、0.5㎜x1mmの領域を1秒程度で高速化学イメージングすることに成功した。また、この画角で10um径以上のサンプルの形状・数を安定的に測定できた。ポリスチレンとアクリル粒子について、それぞれに活性な波長と不活性な波長で測定をしたところ、活性な波長のみ粒子が流れていくのが検出され、不活性な波長では何も検出されないことを確認し、CARSによって粒子の分類ができることを示した。波長を高速変換できるセットアップでは、水中粒子について広波長帯域のCARS信号を数秒で得ることに成功し、高速な粒子分類の可能性を示した。 2018年度の研究成果により、CARSにより水の流れの中で粒子の分類、カウントが可能なことを示し、粒子の海中その場分析技術への応用へ向け、期待できる成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目では単一な物質でできているプラスチックのみをターゲットとして計測を行ったが、プラスチックを用いて本研究での流速で流れ中のターゲット粒子を形状観察でき、分類ができることを示した研究はこれまでに例がなく、革新的な成果を得ることができた。また、これまでCARSではNAが0.5以上の高倍率狭画角レンズでシビアな集光によって計測が実現されると考えられてきたが、本研究でNAが0.3の10倍率という低倍率広画角のレンズを使用してCARS信号をはっきりと検出することができたのは、本研究の目的である海中浮遊粒子の迅速な測定に向け期待ができる成果である。当初の予定ではLaser Induced Breakdown Detection(LIBD)と統合して粒子数カウントをする予定だったが、想定していたよりもCARS信号が高解像度ではっきりと取れることがわかり、粒子数のカウントもCARSで信頼度高くできることがわかった。よって、CARSのみで目的を達成することができれば、当初の予定よりもシンプルなセットアップでの粒子計測システム製作が見込まれる。本年度はプラスチックのみをターゲットにしたため、予定していた機械学習による粒子分類まで実施できなかったが、2年目以降にプラスチック以外の粒子での計測を行ってデータを取り、分類法の開発を行う。
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今後の研究の推進方策 |
1年目で、想定よりも高解像度でCARS信号を取得できることがわかり、粒子数カウントもCARSにより実現可能なことが分かった。よって、Laser Induced Breakdown Detection(LIBD)による粒子カウントを計画していたが、2年目では測定をCARSに一本化して粒子の化学分析と数のカウントまでCARSで行える可能性を詳細に検討し、目的としているターゲットの分析技術開発を行う。2年目は、流れる粒子を分類するため多波長を同じターゲットに当てるシステムの構築をする。具体的には、高速に波長を変換できるシステムで、流路内の粒子種類特定を実現することを目指すとともに、広領域システムの方では、粒子が検出された場合に波長を変えている時間(1分程度)に粒子を流路内にとどめる流路の設計と流速の制御を行う。また、流れる粒子に確実にレーザーを集光するため、流体デバイス形状を工夫して流れによって集光域に粒子が集まりやすい流路の設計を行う。実験はサウサンプトン大学で行い(1年目に引き続き外来研究員としての滞在許可を取得済み)、海中に浮遊する様々な粒子について流れの中で安定的にCARS信号を得て、粒子濃度を求めることを目指す。CARSに使用できるレーザーを選定し、購入する予定である。3年目にかけ、流路にフィルタを導入した粒子濃縮機構のプロトタイプを製作し、深海その場で実装可能な、迅速な粒子化学計測手法の確立を目指す。
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