研究課題/領域番号 |
18K13938
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山下 正太郎 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40805107)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 凝固割れ / 高温延性曲線 / 凝固割れ予測 / 拘束緩和式U型高温割れ試験 / 後熱処理 / レーザ / ひずみ履歴制御 |
研究実績の概要 |
昨年度までに,レーザを直後熱用熱源として使用することで凝固割れ発生を抑制できることが示唆された.様々な直後熱条件(レーザ出力,レーザスポット径,照射位置,照射タイミングなど)に対して凝固割れ発生挙動を調査した結果,割れ抑制と直後熱条件との関係が限定的であることが示唆された. そこで本年度は,直後熱による凝固割れ発生抑制現象のメカニズムを明らかにする目的で,直後熱(熱ひずみ制御)に対する数値解析を用いた理論的検討に基づいて凝固割れ抑制メカニズムを定量的に考察した.一般的な溶接部に対して,レーザを用いた直後熱を適用すると,溶融池周辺の温度履歴及び温度分布が変化することわかった.溶接部の温度履歴(冷却速度)が低下すると,凝固割れが生じる固液共存温度領域におけるひずみが増加することが明らかとなった.一方で,直後熱により溶融池周辺の溶接線垂直方向の温度分布が拡がるような場合は,溶接線垂直方向の割れ発生に寄与するひずみが減少することが示唆された.よって,実験ならびに理論的検討より,溶融池の温度履歴(冷却速度)が大きくなる,もしくは溶接線垂直方向の温度分布を拡大させることで,凝固割れ発生に関わるひずみを低減できることが示唆された.このメカニズムを検証するために,溶融池と平行にレーザ照射を行い(溶接線垂直方向の温度分布を拡大することと等価),凝固割れ発生が抑制されることが確認された.また,溶融池ならびに周辺の温度分布を変化させることなく冷却速度を大きくした場合(溶融池冷却速度の増大と等価),凝固割れ発生が抑制されることが確認された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は,大きく以下の3つの検討項目に分類できる.①熱ひずみ制御とレーザ直後熱の関係とレーザ照射条件の最適化,②熱ひずみ制御が高温割れ感受性(凝固割れ発生)に与える影響,③熱ひずみ制御に対する数値解析を用いた理論的検討である.本年度までに,上記3項目について検討を実施して,レーザ直後熱(または,レーザを用いた補助熱源)を活用することで凝固割れ発生を抑制できることを示唆することができた.これまでに,材料学的知見に基づいて凝固割れは化学組成のアプローチから対策されてきたが,この研究を通して凝固割れ発生メカニズムの力学現象に立脚した凝固割れ防止方法を提案できたことは工業的価値が高いと言える.特に,凝固割れ発生温度領域におけるひずみ発現を,溶融池の冷却速度ならびに3次元的温度分布を変化されることで最適化が可能であることが明らかとなったことは,本研究のみならずあらゆる溶接プロセスにおける制御指針となると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
これまでにレーザ直後熱(又は,レーザを用いた補助熱源)を用いて凝固割れ発生を溶融池周辺の温度分布を制御して抑制することを試みてきた.溶接線垂直方向の温度分布の拡大ならびに溶融池の冷却速度を大きくすることで凝固割れ発生が抑制されることが明らかとなった.凝固割れ抑制の要因としては,凝固割れが発生する温度範囲(固液共存温度範囲)におけるひずみ発現に起因していた.固液共存温度域におけるひずみの発現に関しては,未だ曖昧な点が多い.特に,固液共存温度範囲におけるひずみ履歴が,高温延性曲線と交差することで凝固割れが生じるが,拘束緩和式U型高温割れ試験により溶接時の高温延性曲線が取得できることについても未だ曖昧な理解にとどまっている. そこで本年度は,凝固割れ発生の根源的な機構を更に詳細に議論するために,各種高温割れ感受性試験に対して凝固割れ発生ひずみを取得することを目的とする.バレストレイン試験ならびに拘束緩和式U型高温割れ試験に対して凝固割れ発生を直接観察することで凝固割れ発生ひずみを取得するだけでなく,凝固割れ感受性評価法として,各試験から得られる指標を明確化することを試みる.その結果に基づき,本検討における凝固割れ抑制のためのアプローチの妥当性を明らかとする.
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