本研究の目的は、船舶衝突事故において船舶に刻まれた傷の形状・角度等から、衝突時の状況を推定する手法を確立することである。2023年度については、研究の総まとめとして、これまでの成果を取りまとめるとともに、理論の検証のため、追加の衝突模型実験を精力的に実施した。また、本推定手法に基づき、実際の船舶衝突事件の鑑定を実施した経験を踏まえ、ある判決例(過失犯)にかかる事実認定のあり方について検討した論文を、刑法の専門家との共著にて、海上保安大学校研究報告(法文学系)第68巻に投稿し、2023年度末に採択された(論文名:過失犯の事実認定の一側面‐船舶の一事例(福岡高裁宮崎支部令和4年1月27日判決EX/DB25591574)‐)。 補助事業期間の最終年度であったことから、各種の学会での発表、国内外の学術誌への論文投稿を予定していたところであるが、学内の重要校務(海上保安大学校教務部教務課長)を併任することとなった関係上、多忙を極めたため、予定通りの成果公表を行うことができなかった。2024年度も同校務の併任を継続していることから、最終的な成果公表については2025年度以降に、それまでに得られるであろう新たな成果も加えた上で行うことを予定している。 本研究が提案する推定手法を検証するための衝突模型実験の手法の確立、それに伴う計測システムの構築については、所期の目標を十分に達成したものと考える。今後も実験結果を蓄積していくことにより、「船舶衝突事故において船舶に刻まれた傷の形状・角度等から、衝突時の状況を推定する手法」のさらなる精度向上が期待され、同手法については、実際の船舶衝突事故鑑定等に活用されていく予定である。
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