研究課題/領域番号 |
18K13951
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研究機関 | 東京電機大学 |
研究代表者 |
土井根 礼音 東京電機大学, 総合研究所, 助教 (20784424)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 重回帰分析 / 機械学習 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,人工知能を用いた操船者の肉体的疲労を対象とした遠隔アラームシステムの開発である.令和1年度(以降,前年度)の目標は,AIを用いたエネルギー消費量の予測アルゴリズムの開発及び肉体的疲労度が閾値を超えたことを警告するアラームの検証である.前年度は特に,AIを用いたエネルギー消費量の予測アルゴリズムの開発に重点をおき, (1)機械学習を行うための研究環境の整備,(2)操船者の肉体的疲労の指標となるエネルギー消費量を予測するための基礎研究及び論文発表を行った. (1)機械学習を行うための研究環境の整備では,人体に取り付けたiPhoneから取得した加速度・角速度データにより操船者の肉体的疲労の度合い(以降,肉体的疲労度)を予測するための入力層,中間層,出力層の設計を試みた.しかしながら,操船者の肉体的疲労度を予測するための適切な層設計には至っておらず,現在もプログラムの試作・検討を進めているところである.(2)の操船者の肉体的疲労を予測するための基礎研究としては,小型船舶乗船者の身体動揺からエネルギー消費量を予測可能なモデルを重回帰分析により構築し,腰部の前後方向の角速度(縦揺れ,pitch方向の動揺)と体重から,71%の一致率でエネルギー消費量を予測可能であることを明らかにした.また,生体がエネルギーを消費する原因の一つとして考えられる身体動揺の調節は,平衡感覚,視覚,体性感覚の情報をもとに行われることに着目し,小型船舶乗船者を対象とした実験では除外していた視覚情報が生体の身体動揺とエネルギー消費量に及ぼす影響を解析した.これにより,視覚情報により生じる生体の身体動揺は,加速度,角速度では計測されないほどの僅かな動揺であり,エネルギー消費量に影響しないことが明らかとなった.これらの成果は論文として発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和1年度(以降,前年度)の目標は,AIを用いたエネルギー消費量の予測アルゴリズムの開発及び肉体的疲労度が閾値を超えたことを警告するアラームの検証である.AIを用いたエネルギー消費量の予測アルゴリズムの開発については,加速度・角速度データとして計測した身体動揺から操船者の肉体的疲労の度合い(以降,肉体的疲労度)を予測するための機械学習方法を検討している段階で,適切な入力層,中間層,出力層の設計には至らなかった.また,肉体的疲労度の警告アラームを操船者に知らせるソフトウェア開発については,アラームを受信するAppleWatchなどの研究環境を整備することができたが,生体の肉体的疲労度の基礎研究,および予測アルゴリズムの試作・検討に予想外の時間を要したため,遠隔アラームシステムの試作には至っていない状況である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は,人工知能を用いた操船者の肉体的疲労を対象とした遠隔アラームシステムの開発を目的とし,(1)iPhoneを用いた動揺計測装置の構築,(2)人工知能を用いたエネルギー消費量の予測アルゴリズムの開発及びアラームの検証,(3)肉体的疲労度の遠隔アラームシステムの検証の3年間のステップで,システムの実現を目指している.ステップ(2)である令和1年度(研究2年目)は,AIを用いたエネルギー消費量の予測アルゴリズムの開発及び警告アラームの検証を目標とし,小型船舶の動揺および視覚刺激から生じるエネルギー消費量を分析する基礎研究を行い,2件の論文発表を行うと共に,機械学習を行うための研究環境の整備,プログラムの試作,検討を行った.しかしながら,加速度・角速度データとして計測した身体動揺から操船者の肉体的疲労度を予測するための機械学習の開発には,個人差のある生体データを扱うことから,当初の想定よりも,入力データの前処理,層数,学習方法の検討にさらなる時間が必要であり,肉体的疲労度の警告を操船者に知らせる遠隔アラームシステムの試作までには至っていない状況である. ステップ(3)である令和2年度(研究3年目)は,当初の計画では,操船者を想定した複数人の実験協力者を対象とし,肉体的疲労度をモニタリングすると共に,肉体的疲労度が危険領域に入るとアラームを発信する検証実験を行う予定であった.ステップ(2)の進捗の遅れを踏まえ,本年度は,人工知能を用いた操船者の肉体的疲労を対象とした遠隔アラームシステムの基盤となる機械学習によるエネルギー消費量の予測アルゴリズム開発に重点をおき,システムの基盤技術の開発を目指していく予定である.ステップ(2)の基礎研究で得られた実験データは,現在,機械学習の学習データとしての活用可能性を検討しているところである.
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