本研究の目的は,人工知能を用いた操船者の肉体的疲労を対象とした遠隔アラームシステムの開発である.操船者の肉体的疲労度は,エネルギー消費量を指標として評価した.令和2年度~3年度は,新型コロナウイルスへの感染対策を実施する必要が生じたため,システム構築のための研究活動が制限され,システム検証に必要な計測実験の実施が困難であった.そこで本課題では,研究期間である4年間で(1)遠隔アラームシステムの開発環境の構築,および(2)操船者の肉体的疲労度を予測する機械学習方法の検討を行った.最終年度である令和3年度は,操船者の肉体的疲労度を予測する機械学習に有効なパラメータの検討を行った. 平成30年度は,生体の姿勢動揺を加速度・角加速度として計測するiPhone,iPhoneで計測した加速度・角加速度を検証するためのモーションセンサ,アラームを受信するAppleWatchにより,遠隔アラームシステムの開発環境を構築した.令和1年度~3年度は,操船者のエネルギー消費量を予測する機械学習に有効なパラメータの検討を行った.操船者にエネルギー消費量が生じる原因は,立位姿勢動揺にあると考えられる.生体の立位姿勢は,視覚,平衡感覚,体性感覚の情報に基づき制御される.本課題では,生体の平衡感覚や体性感覚への入力を捉えた加速度・角加速度,表面筋電位,および視覚情報である波浪映像が生体のエネルギー消費量に及ぼす影響を調査した.重回帰分析により,生体の腰部の前後方向の回転運動および表面筋電位がエネルギー消費量に影響を及ぼすことがわかった.さらに,波浪映像の波向きに応じて生体の立位姿勢動揺が生じることがわかった.本成果により,操船者の疲労度を予測する上で,腰部の動揺,および視覚情報が重要なパラメータである可能性が明らかとなった.
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