研究課題/領域番号 |
18K13969
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
ガヴァンスキ 江梨 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (00608797)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 金属屋根 / 風洞実験 / 風荷重 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、様々な種類の低層建物(住宅、商業建物、工場など)に使用される金属屋根のより適切な疲労破壊に対する設計法の提案とリスク評価である。具体的には繰り返し載荷を用いた疲労実験による耐力評価、台風通過に伴って屋根に作用する風圧時刻歴の不確定性を考慮した疲労に対する設計用荷重評価、これらを用いた疲労設計法の提案と台風通過に伴う金属屋根のフラジリティ(脆弱性)モデルの作成と日本各地におけるリスク(被害額など)評価を行う。 平成30年度は、まず、これまでの台風などの強風による建物被害の文献調査を行い、対象とする金属屋根種類と留め具の選定を行った。金属屋根の耐力評価としては、繰り返し載荷の前段階となる静的引張載荷実験を行い、各種パラメータ(載荷方向、試験体板厚、ネジと試験片端との距離(端空き距離)、試験片端部ヘミング加工の有無)の影響を評価した。最後に屋根に作用する風荷重算定としてはその対象をマルチスパン屋根とし、実験パラメータを屋根形状(2つ)・勾配(5つ)、屋根スパン数(5つ)として風洞試験を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画では、対象とする金属屋根種類と留め具の選定、金属屋根の疲労に対する耐力評価、低層建物屋根に作用する風荷重評価であった。このうち耐力評価における繰り返し載荷の実験のみ実施できていないが、その試験装置の製作にもすでに始めており、おおむね順調に進展していると判断した。結果として以下の考察を得た。 1)金属屋根被害としては金属屋根葺き材と構造体との接合部における被害が多く、接合部といっても屋根形式ごとに異なり、種類も多いことが分かった。またこれらの被害は台風来襲時などに確認されながらも、耐力算定に関する研究は殆ど行われていないことも分かった。多くの選択肢の中から、特に被害の多い金属屋根葺き材と屋根構造の接合部にあるネジによる屋根葺き材の端切れ破壊を今回の研究対象とした。 2)金属屋根接合部に関する耐力算定の既往研究例が殆どないことから、基礎資料の収集として静的荷重での載荷実験を行った。実際に風が作用する場合、ネジの軸に対して斜め方向に載荷されるため、その極端な状況としてネジに対してせん断方向と引き上げ方向に引張載荷を行った。載荷方向以外に試験片板厚、ネジと試験片端との距離(端空き距離)、試験片端部ヘミング加工の有無をパラメータとした。試験体の破壊形式としてはせん断・頭抜け・ネジ抜け破壊の3種類が観察され、これは載荷方向、板厚、端空き距離の違いによって引き起こされた。 3)低層建物屋根に作用する風荷重評価では屋根勾配20度と45度の追加風洞実験を行い、屋根形状・勾配、屋根スパン数の影響を考察した。またアメリカ設計標準ASCE7との比較も行い、ASCE7値は屋根勾配の影響を適切に反映しておらず、また特に屋根勾配20度と30度の場合、ASCEの領域分けが妥当でない可能性を指摘した。最後に建設省告示1458号との比較も行い、正圧・負圧共に告示の値は大きく過小評価していることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
耐力算定に関しては、今年度行った静的引張載荷実験で検討したパラメータの一部に対して繰り返し荷重による破壊実験を行う。現在製作している載荷装置の性能により、試験体に繰り返し荷重のみを行うことで試験体を破壊させるか、繰り返し荷重をある程度載荷した後、静的引張荷重を載荷して試験体を破壊させるか、を決定し、それらの結果から繰り返し載荷による耐力低下がどの程度のものであるのかを評価する。 風荷重に関しては今年度行った風洞試験で得られたマルチスパン屋根に作用する風圧係数と、全球確率台風モデルより得られた台風の風速と風向時刻歴を組み合わせることで、疑似的な台風(デザイン台風)の風圧時刻歴を作成する。そしてこれを用いて複数の台風に対して、台風通過時の各風圧レベルとその発現頻度、または建物パラメータの影響について統計的な考察を行い、疲労に対する風荷重の算定・提案を行う。 最後に、得られた耐力データとデザイン台風に基づいて算定した風荷重情報より、適切な疲労破壊に対する設計法を提案する。更にモンテカルロシミュレーションを行い、具体的な被害イメージを具現化できる、想定建物の金属屋根破壊確率と風荷重の関係性を表すフラジリティモデルを作成する。
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