本研究の目的は、落雷発生予測の実現に向けた雷雲内に生成される電荷(以下、雲内電荷)の盛衰と落雷発生の関係性把握である。雲内電荷の電荷量、電荷高度は、地上静電界の多点計測により推定する。栃木県足利市周辺域で毎年数例発生する空間的に孤立した雷雲(以下、孤立雲)を観測対象とした。孤立雲内部に単純な電荷モデルを仮定し、地上静電界の水平分布より雲内電荷の定量推定法開発に取り組んだ。 課題最終年度となる2020年度は、(1)静電界センサーの独自製造体制の確立、(2)地上静電界の多点計測網の構築、(3)孤立雲内部に点電荷モデルを仮定した雲内電荷の定量評価法の確立、の3点に取り組んだ。(1)ではコロナ禍により外部企業との連携が困難になったため、センサーの構成パーツほぼ全てを申請者の研究室内で独自製造できる体制を構築した。結果として設計開発の自由度が高まり、センサー内部構造の単純化、小型化、低消費電力化を実現した。(2)では当初目標の8機設置を上回る計12機のセンサー設置を完了した。単純な雲内電荷モデルを適用可能と考えられる孤立雲の観測に成功した。(3)では、初期結果として2019年、2020年に観測された孤立雲2事例に対し点電荷モデルを適用し、点電荷の電荷量・電荷高度の時間変動を1秒分解能で算出できた。導出した雲内電荷位置と気象レーダエコー分布を比較し、両者の一致性よりデータ解析の妥当性を確認した。上記成果は学会発表し、現在は投稿論文を準備している状況である。 本研究課題により、世界に先駆けて雲内電荷の時間変化の定量把握を実現し、落雷発生予測法開発の技術基盤を確立した。一方で、センサー開発、観測網構築に予定外の時間を費やし、データ解析は予定より大幅に遅れた。雲内電荷の増大・減少と落雷発生の比較も不十分な状況であるため、今後の継続課題とする。
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