本研究は,断層内物質の模擬試料と天然に存在する断層岩,及び断層運動を模擬した高速摩擦試験によって人工的に破壊させた岩石の物理的・化学的性質を,鉱物・化学分析,顕微鏡観察等により解明することで,断層の活動性評価の鍵となるような特徴(鉱物・化学組成の変化や変形組織等)を的確に捉えることを目的とする。 令和5年度は,前年度の電子顕微鏡による組織観察で確認されたclay-clast aggregate(CCA)様の組織について,組織中の部位による化学組成の違いを把握する目的で,電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)による定性分析及び面分析を実施した。分析対象は,断層ガウジの模擬試料の鉱物組成を「斜長石のみ」として高速摩擦試験を行ったケースで形成されたCCA様組織とした。このケースでは,ガウジに蒸留水を添加し,すべり速度1 m/s,軸圧3 MPa,変位量10 mの剪断条件で高速摩擦試験を行った。なお,高速摩擦試験に用いた斜長石のガウジは,曹長石の標準試料を粉砕したものである。 EPMAによる定性分析の結果,分析対象のCCA様組織は中心部・縁辺部とも曹長石と比較してNaが少ないことが分かった。縁辺部では中心部と比較してNaが多く検出された。また,面分析により,このCCA様組織周辺の基質には縁辺部よりも多くのNaが含まれるという結果が得られた。以上より,斜長石(曹長石)の破砕・変質によってNaが溶脱し,基質中に濃集した可能性が考えられる。 本補助事業期間中には断層の活動性評価の鍵となるような特徴を捉えることはできなかったが,これまでに確認されたCCA様組織の産状や化学組成に着目することにより,地震性の断層すべりを特徴づけるような物理的・化学的変化を見出すことができる可能性がある。
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