変形双晶は結晶性材料に共通する塑性変形機構の一つであり、その核生成、成長メカニズムを明らかにすることは重要な研究課題である。昨年度までに、α-Al2O3単結晶中に導入された{1-102}<-1101>菱面双晶の母相/双晶界面の原子構造を透過型電子顕微鏡(TEM)にて解析し、界面はterrace-ledge構造を取ることが明らかとなった。ledge高さは{1-102} 面の格子面間隔(0.384nm)と等しく、5原子面分の高さを有していた。従って、ledge構造が界面上を移動することによって双晶の成長、収縮が起き、この際シャッフリングと呼ばれる原子の協調的な移動現象が生じることが示唆された。 菱面双晶におけるシャッフリング機構を解明するため、第一原理分子動力学計算を実施した。まず、TEM観察実験により得られた母相/双晶界面の原子構造像に基づいてひとつのledgeを伴う界面の原子構造モデルを構築し構造緩和計算を行った。得られた理論構造が実験像とよく一致することを確認した。次に、計算モデルに対し双晶方向にせん断ひずみを与え分子動力学計算により原子挙動を追跡したところ、ledge構造が双晶方向に移動する様子が再現された。ledge構造の移動に伴う各原子の動きを詳細に解析したところ、2つのAl原子と3つのO原子から構成される原子グループが双晶の方位関係になるよう協調的に配置変換する現象が見出され、この原子グループの挙動が菱面双晶におけるシャッフリングの素過程であることが明らかとなった。また、シャッフリングに際して破断する原子結合が極力少なくなるような原子の配置変換のモードが選択されていることが示唆された。以上より、比較的少数の原子による協調的かつ規則的な配置変換が双晶系の活性化と密接に関わっているものと考察された。
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