研究課題/領域番号 |
18K13982
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
馮 斌 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (20811889)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 原子分解能電子顕微鏡 / 粒界溶質偏析 / イットリア安定化ジルコニア / STEM-EDS / 表面界面 |
研究実績の概要 |
本研究では、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)粒界におけるY粒界偏析構造について、電子顕微鏡観察を中心とした微構造解析を行うことで、セラミックス粒界の原子レベル溶質偏析挙動の解明を目指す。本年度の主な研究実績は下記の通りである。 (1)YSZ単一粒界の作製及び構造解析。双結晶法を用いて、系統的に多様なモデル粒界(小傾角粒界と対称対応格子粒界)を作製した。走査透過型電子顕微鏡法(STEM)とエネルギー分散型X線分析法(EDS)を併用し、得られた転位列(小傾角粒界)と対称対応格子粒界におけるY偏析構造をナノスケールから原子スケールにて直接観察を行った。その結果、転位と粒界にYが偏析しており、転位近傍では引張応力によりYが偏析する、対応格子粒界では特定の原子サイトに偏析する傾向が確認された。転位に関する成果は論文として学術国際誌「Nano Letters」に掲載された。 (2)原子分解能STEM-EDSを用いた粒界組成定量解析の検討。周期性が乱れた原子構造を有する粒界では、複雑な電子線チャネリングの効果により、STEM-EDSで得られる特定元素のX線強度は必ずしも元素濃度を反映する結果になるとは限らない。そこでマルチスライスをベースにしたSTEM-EDSのシミュレーションを用いて、既知のモデル粒界について計算を行った結果、粒界組成は電子線入射方位に強く依存する事が確認された。シミュレーション結果に基づいて実験条件を設計する事で、粒界組成解析が可能となることが示唆された。本成果は論文として学術国際誌「Ultramicroscopy」に掲載された。 また双結晶作製の予備実験として、熱処理によるYSZ表面の組成解析を行った。X線光電子分光法により、表面付近のY偏析が確認された。表面は粒界形成とも密接に関連していると考えられるため、来年度も継続して解析を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、主にYSZの小傾角粒界と対称対応格子粒界を対象とし、モデル粒界の試料合成および透過型電子顕微鏡法を中心とした微細構造解析を行い、当初に想定していた研究計画通りに進んでいた。 YとZrのサイズミスマッチにより、転位におけるY偏析は転位周辺のひずみ場に起因する事が解明された。このようなY偏析とひずみ場は、転位の酸素拡散に大きく影響すると考えられる。この結果は論文発表につながった。(Feng et al. Nano Lett, 2019)。一方粒界においては、Yが特定の原子サイトに偏析している事が観察され、粒界の回転軸や粒界面にも強く依存している事が示唆された。また微分位相コントラスト法を用いて粒界局所ポテンシャルの計測を試みたが、粒界ポテンシャル変化と同時に回折によるコントラストが強く表れるため、今後さらなる検討が必要である事が示唆された。 理論解析においては、マルチスライスに基づいたSTEM-EDSのシミュレーションを、特定の粒界に対して行い、STEM-EDS実験による粒界局所組成解析への影響を検討した。その結果、STEM-EDSによる粒界組成解析は、電子線チャネリング効果でアーティファクトを引き起こすが、計算と実験を併用することにより、粒界組成の計測が可能であることが明らかになった。この結果は論文発表につながった。(Feng et al. Ultramicroscopy, 2018) また予備実験において、YSZ表面におけるY偏析現象が確認され、当初期待していなかった成果となった。来年度では引き続き解析を行う予定である。 以上の結果により、本年度の研究計画はおおむね達成されたと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
来年度の研究計画は下記の通りである。 (1)非対称粒界を作製する。これらの非対称粒界と、本年度に作製した多様なモデル粒界について、引き続きより詳細な電子顕微鏡解析を行っていく計画である。 (2)理論計算により、粒界における原子分解能STEM-EDS定量解析手法の検討を行う。具体的には既知の偏析粒界モデルに対して、動力学効果を考慮したSTEM-EDSのシミュレーションにより、Yの濃度定量性について評価する予定である。 (3)電子顕微鏡解析を用いてYSZ表面におけるY偏析構造の観察を行うことで、表面偏析メカニズムの解明を目指し、派生効果を狙う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度では、双結晶作製条件の探索が当初予定よりも早く実行できたため、初年度の購入計画にあった、一部のYSZ単結晶や熱拡散炉消耗品が不要となり、その残額を次年度に使用することとした。 来年度では非対称モデル粒界を作る必要があり、特定方位に加工したYSZ単結晶を購入する予定である。また初年度に引き続き、試料合成やTEM試料作製に必要な物品に使用する予定である。次年度は国内外学会や学術論文にて成果の発表を積極的に行う予定であり、旅費とその他の非常として支出する予定である。
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