研究課題/領域番号 |
18K13989
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
生井 飛鳥 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (40632435)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 磁性フェライト / ハード磁性 / 金属置換 / 磁気特性 / 電磁波吸収特性 |
研究実績の概要 |
本研究課題は、三酸化二鉄の結晶相の一つであるイプシロン酸化鉄が磁性フェライト最大の保磁力、最高周波数の自然共鳴による高周波ミリ波吸収特性を示すことに着目し、イプシロン酸化鉄を基材としてこれまで検討が殆どなされていない磁気モーメントを有する金属イオン置換を行うことで、高性能磁性フェライトを合理的に合成することを目標としている。 2019年度は、強い一イオン異方性を持つCo(II)に着目した。イプシロン酸化鉄の鉄イオンが三価であるため、電荷補償のためCo(II)にTi(IV)を組合せた共置換を検討した。合成にはゾルゲル法を用いた。結晶構造解析によりTiとCoはイプシロン酸化鉄の四配位サイトを置換していることが示唆された。室温で磁気ヒステリシスを示し、保磁力は置換量の増加とともに20 kOe(無置換)から8 kOe(5%置換)まで変化した。自然共鳴によるミリ波吸収特性に関しては、3%置換試料ではピーク周波数(fr)は140 GHzで半値全幅(Δf)は15 GHzであり、5%置換試料ではfr = 121 GHzでΔf= 24 GHzであった。観察された保磁力および共鳴周波数の減少は、Ti-Co置換による磁気異方性の減少によると考えられる。Coの一イオン磁気異方性の方向が、イプシロン酸化鉄の磁気異方性の方向とほぼ直交しているために、系の磁気異方性を相殺していることが分子軌道計算から示唆された。また、Ti-Co置換が、隣接Feイオン上のスピンに作用する磁気異方性に違いを生じさせ、共鳴吸収の起源であるスピンの歳差運動に差異が生じて共鳴線幅が広がったと考えられる。なお、本材料の様にブロードな共鳴吸収を示す磁性材料は広い周波数範囲でノイズ抑制効果を達成できるためミリ波吸収体としての可能性がある。以上のように、強い一イオン異方性を持つCoイオンの導入に加え、その機能性の観測にまで至っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、主題となる研究項目として、磁性イオンの導入による磁気異方性の向上、自然共鳴周波数及び線幅の制御、を目標としていた。いずれの項目においても既に論文として成果を報告するに至っている。現在は、当初の計画にはなかった他種材料とのコンポジット化による高性能化にも着手しており、当初の計画以上に研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、本研究で提案している磁性イオン置換による高性能フェライトの合成について、置換金属の種類という観点からバリエーションを拡大し、幅広い機能性の実現を進める。その際、第一原理計算や分子軌道計算を有効に活用し、合理的に物質開拓を行う。また、これまでの研究を通じて、有効性が判明している他種材料とのコンポジット化についても検討を進めていく計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、置換する金属イオン種の事前の絞り込みを行うことにより、合理的に目的とする機能性を見出すことに注力した.その結果、試薬・物品費の購入額が当初予定よりも低く済むこととなったことが、次年度使用額が生じた理由である。今後は、磁性金属種のバリエーション拡大のために多種の試薬・物品購入が必要となるため、次年度使用額をそれらに充てる予定である。
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