研究課題/領域番号 |
18K13999
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
園村 浩介 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 研究員 (60712015)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 固体電池 / 界面 / 結晶成長 |
研究実績の概要 |
全固体リチウム電池において、急速充放電の実現、延いては電池性能の劣化防止のためには、界面抵抗の低減が不可欠である。正極側は、活物質への酸化物被覆によるリチウムイオン濃度分極の抑制効果について、第一原理計算にて調査されている。一方、負極側は、グラファイトを用いた場合、正極材と比べて、界面抵抗が1桁低い10 Ω程度(室温、10サイクル目の充電後のインピーダンス測定結果)であるため、被覆による界面抵抗の低減は殆ど検討されておらず、計算もされていない。計算のためにはモデルが必要であり、グラファイトと被覆材との界面の構造について知見を得る必要がある。被覆材については、低電位において電気化学安定性が高いLiCl、LiBr、LiI等が候補として挙げられる。既報告の硫化物固体電解質Li6PS5Clと同様に、LiCl、LiBr、LiIはエタノールに溶解させることが出来て、グラファイトに容易に被覆することが可能である。しかしながら、液相法にてLiCl、LiBr、LiIをグラファイトに被覆し、その界面構造について調査した報告は無い。そこで、今年度は,まず液相法にてLiCl、LiBr、LiIを被覆したグラファイト試料を作製し、X線回折測定にて結晶配向性を評価することにより、グラファイトと被覆材との界面構造モデルについて検討した。結果として、結晶配向のため、高配向性グラファイトの面内方向上に析出したLiCl、LiBrにおける(220)面のピークが比較的高かった。格子整合性を考慮した場合、グラファイトの(220)面上にLiClの(220)面が優先的に成長したことが分かった。LiIについては結晶配向が見られなかった。これら得られた格子整合性をもとに、計算モデルを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の計画では、H30年度(前期)からH31年度(後期)にかけて界面構造モデルを作成することになっており、今年度は、液相法を用いてグラファイトに低電位においても化学的に安定なリチウム化合物を被覆し、結晶配向について確認して界面構造モデルを作成できたので、計画通り研究が進んでいる。 全固体リチウム電池の界面において、蒸着装置を用いて界面形成を行い、界面について情報を得た報告は多くあるが、液相法を用いて界面形成を行った報告は殆ど無い。LiIは、高配向性グラファイトの面内方向上に対して結晶配向が見られなかったため、計算モデルが作成出来なかったものの、LiClとLiBrについては、結晶配向が見られ、計算モデルソフトを用いてモデルが作成出来た。計算モデルをもとに、第一原理計算を行い、リチウム化合物とグラファイトとの原子結合状態(原子結合状態が強いほど、良好な界面を形成する)が明らかになる。 固体電解質Li6PS5Clと被覆材との界面については、今度末頃より検討し始めた。Li6PS5Clを溶解させ、析出させるための温度や真空度の条件について調査を行った。現状、固体電解質Li6PS5Clと被覆材については界面モデルが作成出来てないが、来年度、引き続き、取り組む予定である。 H30年度導入予定であった界面の計算を行う計算機(備品)も計画通り導入され、計算条件について検討を行っている。ポテンシャルやカットオフエネルギー、Kポイント数、収束条件、原子数や各レイヤーの数等の条件を変更しながら計算を行い、収束したエネルギーについて確認を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
固体電解質Li6PS5Clと被覆材との界面モデル作成のため、(220)方向に配向したLiClとLiBr上に溶解させたLi6PS5Clを塗布、乾燥させ、界面形成を行い、結晶配向性について確認を行う。固体電解質と被覆材ともにエタノールで溶解させているため、塗布時に被覆材が溶解する可能性が高い。また被覆材の結晶性が低い場合、固体電解質が配向しない可能性がある。溶媒の再選定やリチウム化合物の結晶構造と同じ、かつ格子定数が同程度の塩化ナトリウムの単結晶を使用して検討する予定である。塩化ナトリウムの(220)方向に対して固体電解質の結晶配向が見られた場合、計算モデルソフトにてモデルを作成する。 得られた界面構造モデルをもとに、第一原理計算を行い、原子結合状態や界面付近でのLiイオン濃度分布について評価を行う。計算のためには、ポテンシャルやカットオフエネルギー、Kポイント数、収束条件、原子数や各レイヤーの数などの最適条件を抽出する必要があり、これらの条件を変更しながら検討を行う。 計算の結果、良好な界面であることが分かった場合、液相法にてグラファイト粉末に被覆を行い、その粉末を用いて全固体リチウム電池を作製ならびに評価を行う予定である。仮に計算の結果、良好な界面ではないということが分かった場合は、低電位において電気化学的に安定な別の被覆材料について検討を行う。被覆材の候補として、Li7La3Zr2O12、Li2ZrO3、LiAlO2、Li2O等の酸化物の被覆を検討する予定である。酸化物の被覆にはゾルゲル法を用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
界面構造解析のための計算機(備品)を購入するため、前倒し支払い請求を300,000円行い、2,997,000円で計算機を購入したため、3,000円差額が生じた。本研究課題は、界面構造モデルを計算するための大型計算機を導入しなければ、遂行することが出来ないため、計算機の購入を優先した。当初、計上していた消耗品や旅費については、研究所の予算にて補った。次年度は、前倒し支払い請求を行ったため、計画の額とは異なるが、研究所の予算で補い、滞りなく、計画どおり研究を遂行する。
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