人工接着剤の代表格であるエポキシ系接着剤でシリカ表面を接着させることは空気中でならば簡単だが、水中では非常に難しい。これはシリカ表面が水に覆われている方が、接着剤と接するよりも界面自由エネルギー的に安定だからである。一方でムール貝は接着の難しい海水中であっても、岩に強固に付着し波にさらわれることはない。近年ムール貝の接着タンパク質中に多く含まれるジヒドロキシフェニルアラニンが水中接着剤開発の分子設計における鍵となるのではないかと注目を集めている。このジヒドロキシフェニルアラニンの側鎖はフェノールに一つ水酸基が付加したカテコール基であり、このカテコール基を側鎖にもつ高分子の合成が盛んに行われている。しかし、フェノール性水酸基を2つもつカテコール基が本当に水中接着剤として最適な官能基なのだろうか。本研究ではこの問いに答えるため、フェノール性水酸基の数を系統的に0~3個の間で変化させたポリマーの合成手法を確立した。また、他のモノマーとの共重合も併せて行い、ガラス転移温度を適切な範囲に調節した。同一条件で接着強度を比較することで、水酸基の数と接着強度の相関を明らかにした。被着体としては、アルミ板、ガラス板、PTFE、豚皮を用いた。その結果全ての被着体に対してフェノール性水酸基を3つもつガロール基が最も高い水中接着強度を示した。接着力評価の結果を合成へとフィートバックして共重合比を最適化し、高強度水中接着剤としての配合を決定した。
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