本事業での目的は、ガラス繊維や炭素繊維で強化された樹脂の力学特性に重要となる繊維と樹脂の接着機構を明らかにすることが目的である。特に、リサイクル性の観点からニーズが根深い熱可塑性樹脂をマトリクスとした複合材料において、接着性が低く接着機構が明らかにされていない。2年目で得られた成果をもとに、最終年度は顕微ラマン分光分析にて、1)ガラス繊維、炭素繊維近傍のポリカーボネートの構造及び相互作用の評価、2)炭素繊維近傍のポリアミドの構造評価と接着性の関係 を検討し、以下の成果を得た。 1)ポリカーボネートは通常、非晶の状態で固定化されており、ガラス繊維近傍のポリカーボネートの構造はポリカーボネートの構造と変わりがない。一方、炭素繊維近傍ではポリカーボネートの分子鎖同士の規則的な構造が、炭素繊維表面から1μm程度の領域において形成されていることが明らかになった。またポリカーボネートの主鎖にあるベンゼン環と炭素繊維のベンゼン環同士の相互作用(π相互作用)が働いていることが示された。このことから、ポリカーボネートと炭素繊維の間のπ相互作用が働くこと、ポリカーボネートの規則的な構造によって応力伝達が向上すること、が高い界面接着性を発現した要因であると結論付けた。 2)ポリアミドは大きく3つの結晶系が混在していることから、ラマンスペクトルより、炭素繊維近傍における結晶系の割合を評価した。ポリアミドと炭素繊維の界面接着性が低い組み合わせでは、炭素繊維近傍において強度の高い結晶(α晶)の割合が、炭素繊維から離れた場所よりも小さいことが示された。一方、界面接着性が高い組み合わせでは、炭素繊維近傍でα晶の割合が炭素繊維から離れた場所よりも大きいことが示された。このことからポリアミドの結晶系の分布が界面接着性に寄与していることが示された。
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