研究課題/領域番号 |
18K14005
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研究機関 | 滋賀県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 一正 滋賀県立大学, 工学部, 助教 (20805618)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 表面化学修飾 / 固体蛍光デバイス / カーボンドット / ゾル-ゲル法 / 蛍光波長制御 |
研究実績の概要 |
ナノ蛍光材料であるカーボンドット(C-dots)に有機アルコキシシラン(GPTMS)を化学修飾させ、ゾル-ゲル法を用い成膜すると、C-dots単体より短波長シフトした蛍光薄膜が得られる。この反応による蛍光シフトは、C-dotsを用いたシリカ母材中での蛍光波長制御に有用で、ディスプレイや固体レーザ等への応用が期待される。 そこで有機アルコキシシランの化学修飾によるC-dotsの蛍光シフトと、修飾に伴う構造変化の相関を明らかにすべく、表面構造の安定化について検討した。化学修飾の反応サイトである表面アミノ基の割合を変えC-dotsを作製し化学修飾を施すと、ストークスシフトに違いがみられた。修飾サイトが多いほどストークスシフトが小さいことから、蛍光分子であるC-dots表面の安定化が蛍光シフトに寄与していると強く示唆された。一方、元のC-dotsと比較して、シランで修飾されたC-dotsの蛍光シフト量は30nm以下と小さい。 更なる蛍光シフト量の増加と波長制御域の拡大を実現すべく、次にC-dots自体を変更し、蛍光波長を変化させた。前述のC-dotsは450nmに最大蛍光波長を示すが、出発原料の変更により、同様の化学修飾可能で530nmに最大蛍光波長を示す緑色発光のC-dotsを得た。この緑色発光C-dotsに対し、シランの化学修飾を行うと、短波長側へ100nm程度の大きな蛍光シフトを示した。また蛍光シフトと共に励起スペクトルもシフトしていることから、前述の表面安定化とは異なり、骨格構造変化に関連した蛍光シフトであると示唆された。 以上よりC-dotsへのシランの化学修飾は、C-dotsの表面安定化のみならず、骨格構造にも影響することが示唆される。この蛍光特性の特異な変化について、今後さらに構造解析を進めることで、有機アルコキシシランの化学修飾の実質的な役割を明確にしていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
異なる表面状態のC-dotsを用いて有機アルコキシシランを化学修飾させ、それに伴う蛍光シフトを観察するという当初の第一目標に対して、計画通りに遂行されている。その修飾サイトとシフト量に一定の相関が見出されていることから、蛍光シフトの現象についてもある程度は説明可能な段階にある。一方で、その構造的な証拠を各種解析にて得ることが今後の課題である。 また、蛍光波長制御という取り組みに対しても、原料の異なるC-dotsを用いて化学修飾させることで、特異な蛍光挙動を示し可視光内での100nm程度の広範な領域における波長制御を可能にした。この挙動はこれまでのものとは異なり、興味深い点や未知な点が多いことから、今後さらに解析していく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
表面化学修飾によって蛍光特性に特異な変化が見られ、さらに元のC-dotsの構造に依存して、蛍光シフトの特徴に大きな差異があったことから、それらの蛍光特性と界面周辺での構造の相関について理解を深める。とりわけ構造解析を中心に、NMRやFTIR・Raman分光法、蛍光寿命等の評価を多角的に行うことで、それぞれのC-dotsにおける化学修飾前後での構造変化の理解に努める。また、大きな蛍光シフトを示したC-dotsに関しては、表面構造の変化のみならず、内部のπ共役の変化や炭素以外の結合等にも着目し、C-dots全体の構造を評価することで、巨大な短波長シフトの原因を明らかにすることを目標とする。 一方で、元のC-dotsに依存して化学修飾後の蛍光特性が大きく影響されるため、C-dots自体の解析をさらに深め、化学修飾後の影響についてC-dotsの特徴から分類していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究結果において、化学修飾に用いられる元のC-dotsの構造自体が、化学修飾後の蛍光特性に大きく影響することが示唆された。そこで、C-dots合成時の構造をより詳細に制御することが必要不可欠となったため、C-dots合成に用いられる消耗品の使用を抑え、大量合成を行う前にC-dotsの合成プロセスの精密化を目指すこととした。そのため、次年度はC-dotsの合成プロセスにおける改善を行い、特に温度管理に注力する。予算の使用計画としては、温度コントローラ等の熱処理雰囲気の改善に向けた使用を計画している。
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