研究課題/領域番号 |
18K14007
|
研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
古谷 昌大 東京理科大学, 理工学部先端化学科, 助教 (30737028)
|
研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 接着 / 2-メルカプトピリジル基 / アクリラート / 光ラジカル開始剤 / ジスルフィド / 365 nm光 / せん断引張試験 |
研究実績の概要 |
本研究の計画調書に基づき,i) ポリマー中における2-メルカプトピリジル基の分子構造の調査,ii) 接着界面における2-メルカプトピリジル基の分子構造の調査,およびiii) 合成ポリマーを用いた同(異)種基板接着に取組んだ. i) では,2-メルカプトニコチン酸を塩化チオニルで酸クロリド化し,2-ヒドロキシエチルアクリラート(HEA)と反応させることで,ジアクリロイルモノマー(1)を合成した.カラムクロマトグラフィーによるモノマー(1)の精製法を確立した.モノマー(1)とHEA,光ラジカル開始剤によるポリマーネットワーク形成に成功した.ラマンおよびXPSスペクトル測定により,ジスルフィド結合の存在を確認した.なお,2-メルカプトピリジル基への保護基の導入を検討したが,導入困難であることが確認された. ii) では,銅基板上で硬化させた試料についてXPSスペクトル測定を行なった.その結果,2-メルカプトピリジル基(ジスルフィド化したもの)中の硫黄原子が一部電子リッチになっていること,および窒素原子が一部電子不足になっていることが明らかになった.窒素原子の化学状態に関しては,ガラス基板で同様の測定を行なったときには同様のスペクトル変化が見られなかった.このことから,銅基板上での特徴的な相互作用が示唆された. iii) では,365 nm光LEDランプを用いて,ガラス基板と様々な基板(ガラス,銅,アルミニウム,ポリ塩化ビニル)を光接着させることに成功した.各接着試料について,せん断引張試験を行ない,0.3-1.2 MPa程度の接着強度を得た.類似の化学構造を持つジアクリロイルモノマーを用いて対照実験を行なった結果,モノマー(1)を用いた方が接着強度が大きくなった(特に,ガラス‐銅接着試料の場合,約86倍の接着強度を得た).これより,本研究で提案した分子設計の有効性が確認された.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の計画調書に予め記載した工程表(Table 1)通りに,現在のところ研究を進めることができているため.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,本研究の計画調書のiv) 合成ポリマーに対する潜在性チオールの添加検討に取り組むとともに,前述i)~iii)についても完成度を高めていく.そして,当初の目標であるせん断応力10 MPa以上を達成するべく研究に取組む. i) では,無保護の2-メルカプトピリジル基を側鎖に有するモノマーおよびポリマーの合成を目指す. ii) では,XPSスペクトル測定におけるエッチング条件の最適化を行ない,深さ方向についてより細かく解析を行なう.また,銅やガラス以外の基板を用いて試料を作製し,接着界面における化学状態を解明する. iii) では,接着試料に用いる基板の前処理をより厳密に行ない,接着強度の向上を図る. iV) ではまず,2-メルカプトピリジンのジスルフィド体と一般的なチオールとの間の交換反応について基礎的な知見を得る.次に,光または熱潜在性チオールを合成し,これまでに作製したポリマーネットワーク系に組込む.そして,外部刺激(光または熱)による同ポリマーネットワーク系の解体(接着強度の減衰)を試みる.
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者は今回の科研費運用が初めての経験であり,赤字が出ないよう慎重に研究費を運用したため,40万円超の未使用額が生じたと考えられる. 当該資金については,必要とされる試薬・ガラス器具等の購入に充てる.また,科研費運用2年目の今年度においても,引き続き慎重な運用を行なう.
|