2-メルカプトピリジル基は,周囲の環境に応じて化学構造を変えることが知られる.本研究課題においては,2-メルカプトピリジル基を被着体に臨機応変にその場で適合する接着材料のための分子ツールとして捉え,この官能基を世界で初めてUV接着材料中に導入し,その接着強度向上への効果を検証した.また,様々な接着状況における,2-メルカプトピリジル基の分子構造の解明を試みた. 単官能アクリラート,光ラジカル開始剤,および2-メルカプトピリジル部位を持つアクリラートモノマー(あるいはビニルモノマー)から得られた接着試料の引張強度試験の結果, 2-メルカプトピリジル基を含まないコントロール接着試料に比べ,銅基板に対して強く接着することがわかった.また,興味深いことに,2-メルカプトピリジル基を含む接着試料について接着強度の経時変化を測定したところ,強度が時間経過とともに増大する傾向が見られた.せん断応力の最大値としては,8.8 MPaを得た.これは,日用製品で求められる接着強度(4 MPa程度)を十分に満たすものである.さらに,接着層と基板の界面や接着層中における化学構造について詳細に調べた.たとえば基板がガラスと銅の場合で,その化学構造が変化していることを見出した.一方,接着層中では同官能基が酸化状態となることで架橋を形成し,接着層の凝集力を担保することが示唆された. 本研究における成果の学術的意義として,基板等の接着する対象の化学的性質に応じて接着層界面の化学構造を適合させる,という新しいコンセプトを提案した.これは,化学構造が一義的に決まる従来の接着剤とは一線を画するものである.一方,社会的意義として,本研究の成果は接着する対象を選ばない万能接着剤の開発・発展に寄与するものである.したがって,省資源・省エネルギーのための工業製品の異種材料接着,複合材料化に貢献することができると考える.
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