研究課題/領域番号 |
18K14010
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
平井 翔 福岡大学, 公私立大学の部局等, ポスト・ドクター (20810071)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 表面改質 / ポリオレフィン / ポリエチレン / ポリプロピレン / 機能性高分子 / 接着 / 染色 / ブロック共重合体 |
研究実績の概要 |
ポリエチレンなどのポリオレフィンは、幅広く利用されているプラスチックであるにもかかわらず接着性や親水性を有していないため、利用する際には大きな制限となっていた。しかし、現存する技術を用いてもポリオレフィンに十分な機能を付与することが困難だったことから、今なお簡便で実用的な改質手法の開発が望まれている。そこで本研究課題ではブロック共重合体を用いたユニバーサルなポリオレフィンの改質手法の確立とその改質メカニズムの解明を試み、本改質手法の実用化を目指した。 本手法で使用する側鎖結晶性ブロック共重合体(SCCBC)の組成や温度・溶媒・SCCBCの添加量・浸漬時間などの改質条件を精査したところ、ポリエチレン表面に強固な接着性を付与することに成功した。本手法ではポリオレフィンをSCCBCの希薄溶液に短時間浸漬させるだけでよいため、極めて簡便かつ均質に改質することが可能だった。また本手法ではこれまで改質が困難だった大型品から不織布や多孔膜、チューブの内壁や薄膜に至るまであらゆる形状に対して改質することに成功した。さらに本手法ではSCCBCの組成や改質条件を変更するのみで親水性や染色性などの接着性以外の機能を付与できることを見出した。従来技術と比較しても混錬などの高度な技術や発煙硝酸のような試薬、プラズマ発生装置などの特殊な機械を用いないため、本手法は省エネルギーかつ環境負荷が少なく、汎用性の高い表面改質手法として極めて有望である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度には主としてポリエチレンを用いて、1) SCCBCの組成が接着性に及ぼす影響の評価、2) 改質条件の最適化、3) ブロック共重合体の吸着機構の解明、4) 各種プラスチックへの展開、5) 得られた成果の情報開示、の計画に従い研究を遂行した。 1)、2)に関しては、本手法はSCCBCの希薄溶液(0.1wt%)に短時間(10秒)浸漬させるのみでポリエチレン表面に強固な接着性を付与することに成功した。現在、SCCBCの重合度が接着及ぼす影響について定量的な評価を行なっている段階である。 3)に関しては、透過型電子顕微鏡(TEM)やフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)の測定結果により、ポリエチレンの表層にSCCBCの薄膜が形成されていることを確認した。 4)に関しては、本手法はポリエチレンだけでなく試験的であるが、ポリプロピレンに対しても強固な接着性を付与することに成功している。 5)に関しては、学会などで情報発信に努めた結果、本手法を用いたポリエチレンの改質について企業との共同研究を開始している。
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今後の研究の推進方策 |
今後はポリエチレンやポリプロピレンで得られた知見を基にして、ポリテトラフルオロエチレンやポリエチレンテレフタレートといったプラスチックに対しても本手法の適用を目指す。その際、接着以外の機能付与に関しても併せて検討し、原子間力顕微鏡(AFM)や透過型電子顕微鏡(TEM)などの測定装置を用いることによりSCCBCの吸着機構の解明も試みる。また、ポリエチレンやポリプロピレンの改質に関しては得られた成果を論文にまとめて投稿するだけでなく、国際会議や見本市、HPなど様々な形態で情報発信することにより、企業との実用化に向けた共同研究の実施を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
学会への旅費や九州シンクロトロン光研究センターの県有ビームライン利用費などが別の予算を使用したために次年度使用額が生じた。今後の使用計画としては、未使用額を含めて次年度の研究計画を迅速に遂行するために必要な消耗品の購入費および学会発表などの研究成果発表費用として使用する。
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