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2018 年度 実施状況報告書

炭素・窒素を利用した高強度オーステナイト系ステンレス鋼の水素適合性評価

研究課題

研究課題/領域番号 18K14016
研究機関九州大学

研究代表者

増村 拓朗  九州大学, 鉄鋼リサーチセンター, 学術研究員 (40804688)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2020-03-31
キーワード水素脆化 / オーステナイト系ステンレス鋼 / 窒素
研究実績の概要

本課題では、本質的に水素脆化特性が優れているオーステナイト系ステンレス鋼に対して炭素および窒素を添加することで高強度化し、そのときの耐水素脆性に及ぼす炭素および窒素の影響を評価することを目的としている。水素、炭素、窒素はいずれも侵入型元素であり、それらの鋼中の固溶位置、拡散経路も同じである。つまり、炭素、窒素を添加するだけで水素の鋼中への侵入が阻害され、水素脆化が抑制される可能性があると考えた。しかしながら、代表的なオーステナイト系ステンレス鋼であるFe-18%Cr-8%Ni合金に0.2mass%の炭素または窒素を添加した試料に対して、270℃-72時間の高圧水素チャージを行ったところ、飽和水素量に及ぼす炭素、窒素の影響の相違は見られなかった。そこで、固相窒素吸収法により窒素量をさらに高めた0.5mass%N含有オーステナイト系ステンレス鋼に対して同様の実験を行ったところ、窒素を含まない場合には約92wppmの水素が侵入していたのに対し、窒素含有鋼には約89wppmの水素が含有しており、わずかに窒素によって飽和水素量が減少したことが確認できた。また、冷間加工により転位を導入した試料に対して同様の試験を行った。転位は水素のトラップサイトとなるため、転位密度が高いほど飽和水素量が上昇する。しかしながら、窒素含有鋼ではその上昇が抑制される傾向が見られた。これは、転位上に窒素が存在することで、水素のトラップ能を低減させたためであると考えられる。さらに、水素の拡散速度に及ぼす窒素の影響についても検討したが、拡散速度に窒素の影響はほとんど現れなかった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初、研究対象とした材料としては、オーステナイト系ステンレス鋼に(1)炭素および窒素を0.2mass%添加した試料と(2)固相窒素吸収法により窒素を0.5mass%まで高めた試料を挙げていた。それら試料の準備は完了し、それらに対して高圧水素チャージを行った試料で実験を進めることができている。
これら試料に対して、(A)無加工材では八面体空隙に固溶した炭素・窒素が水素の固溶量・拡散速度に及ぼす影響、(B)圧延材では水素のトラップサイトかつ拡散経路である転位や変形双晶と水素の関係に及ぼす炭素・窒素の影響、(C)時効材では水素固溶量、拡散速度に及ぼす炭化物・窒化物の影響を調査し、炭素・窒素が水素脆化を抑制し得る元素であるかどうかを検討する予定としていた。
(A)については実験はほぼ完了し、0.2mass%程度の炭素、窒素ではほとんど影響がないこと、0.5mass%まで窒素濃度を高めるとわずかに飽和水素量が減少することを明らかにした。また、拡散速度には窒素の影響はほとんど見られないという知見も得られた。
(B)については、窒素を含有してる場合に転位の水素トラップ能が弱まるという新たな知見を得た。一方で、拡散速度は窒素や転位の有無にかかわらず、同一温度では一定値を示した。ここで、従来オーステナイト系ステンレス鋼では評価が難しかった転位密度をmodified Williamson-Hall/Warren-Averbach法というX線ラインプロファイル解析により定量評価することで、転位密度と飽和水素量、拡散速度の関係を定量化できたことが一つの大きな成果である。
(C)については未検討であり、次年度に研究を行う予定としている。

今後の研究の推進方策

初年度は、高圧水素チャージを行った場合の飽和水素量および拡散速度に及ぼす炭素および窒素の影響について主に検討した。固溶した炭素および窒素はそれらにあまり影響を与えないことが示唆されたため、今後は析出させた炭化物および窒化物が飽和水素量や拡散速度に及ぼす影響を検討したいと考えている。
また、本来の目的である水素適合性を評価するために、水素チャージした試料に対して引張試験を行うことで、水素脆化特性に及ぼす炭素および窒素の影響を明確化する。その際、電子線後方散乱回折(EBSD)法や走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いた詳細な加工組織の観察を平行して進め、水素脆化特性の議論を深める予定である。

次年度使用額が生じた理由

予定よりも試料作製が上手くいったため、繰越分が発生した。次年度では学会発表を積極的に行う予定である。

  • 研究成果

    (13件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Effect of nitrogen-addition on the absorption and diffusivity of hydrogen in a stable austenitic stainless steel2019

    • 著者名/発表者名
      Macadre Arnaud、Masumura Takuro、Manabe Ryota、Tsuchiyama Toshihiro、Takaki Setsuo
    • 雑誌名

      International Journal of Hydrogen Energy

      巻: 44 ページ: 1263~1271

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/j.ijhydene.2018.11.031

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Difference between carbon and nitrogen in thermal stability of metastable 18%Cr-8%Ni austenite2018

    • 著者名/発表者名
      Masumura Takuro、Tsuchiyama Toshihiro、Takaki Setsuo、Koyano Tamotsu、Adachi Kazuhiko
    • 雑誌名

      Scripta Materialia

      巻: 154 ページ: 8~11

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/j.scriptamat.2018.05.019

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Discussion about Procedure for Determining Parameter α in Modified Williamson-Hall Method2018

    • 著者名/発表者名
      Masumura Takuro、Takaki Setsuo、Jiang Fulin、Tsuchiyama Toshihiro
    • 雑誌名

      Tetsu-to-Hagane

      巻: 104 ページ: 717~719

    • DOI

      https://doi.org/10.2355/tetsutohagane.TETSU-2018-095

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 高窒素オーステナイト鋼における加工硬化と転位蓄積挙動2019

    • 著者名/発表者名
      増村拓朗 瀨戸雄樹 土山聡宏 高木節雄 木村謙
    • 学会等名
      日本鉄鋼協会第177回春季講演大会
  • [学会発表] 高窒素オーステナイト系ステンレス鋼の加工硬化機構2018

    • 著者名/発表者名
      瀨戸雄樹, 増村拓朗, 土山聡宏
    • 学会等名
      第85回 熱処理技術協会春季講演大会
  • [学会発表] Evaluation of work hardening behavior in austenitic steel by direct fitting / modified Williamson-Hall method2018

    • 著者名/発表者名
      Takuro Masumura, Fulin Jiang, Toshihiro Tsuchiyama, Setsuo Takaki
    • 学会等名
      THERMEC'2018
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] Direct fitting / modified Williamson-Hall法による転位解析2018

    • 著者名/発表者名
      高木節雄, 増村拓朗, 土山聡宏
    • 学会等名
      日本鉄鋼協会 第176回秋季講演大会
  • [学会発表] Direct Fitting法を用いたオーステナイト鋼の転位密度および加工硬化挙動の評価2018

    • 著者名/発表者名
      増村拓朗, 高木節雄, 土山聡宏
    • 学会等名
      日本鉄鋼協会 第176回秋季講演大会
  • [学会発表] Effects of carbon and nitrogen on thermal stability of metastable austenitic stainless steel2018

    • 著者名/発表者名
      Takuro Masumura, Toshihiro Tsuchiyama, Setsuo Takaki, Tamotsu Koyano
    • 学会等名
      ICAS2018
    • 国際学会
  • [学会発表] Work hardening and dislocation accumulation behavior in high nitrogen austenitic steel2018

    • 著者名/発表者名
      Yuki Seto, Takuro Masumura, Toshihiro Tsuchiyama, Setsuo Takaki
    • 学会等名
      CAMS2018
  • [学会発表] SUS316Lステンレス鋼における結晶粒微細化強化の温度依存性2018

    • 著者名/発表者名
      津組杏佳, 増村拓朗, 土山聡宏, 小野嘉則
    • 学会等名
      第86回熱処理技術協会秋季講演大会
  • [学会発表] 高窒素オーステナイト系ステンレス鋼の低温時効硬化挙動2018

    • 著者名/発表者名
      成富光佑, 増村拓朗, 土山聡宏, 宮本吾郎
    • 学会等名
      第86回熱処理技術協会秋季講演大会
  • [備考] 九州大学大学院工学研究院材料工学部門構造材料工学研究室[土山研究室]

    • URL

      https://tsuchiyama.zaiko.kyushu-u.ac.jp/

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公開日: 2019-12-27  

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