研究課題/領域番号 |
18K14018
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研究機関 | 新居浜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
真中 俊明 新居浜工業高等専門学校, 環境材料工学科, 助教 (60805068)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水素脆化 / Al-Cu-Mg合金 / Al-Zn-Mg(-Cu)合金 / 金属組織 / 水素挙動 / 粒界割れ |
研究実績の概要 |
平成30年度は、粒界近傍の金属組織が水素脆化におよぼす影響を調査するため、溶体化処理したAl-Cu-Mg合金に対して140℃で72hまたは360hの時効処理を施した。Al-Cu-Mg合金で通常用いられる時効温度190℃よりも低い温度で時効することで、水素脆化感受性が高いAl-Zn-Mg合金に近い粒界近傍組織を得ることをねらいとした。これらの時効条件は亜時効であることを予備実験で取得した時効硬化曲線より確認している。そして温度25℃、相対湿度90%以上の湿潤大気中で低ひずみ速度引張試験を行い、温度25℃、相対湿度5%以下の乾燥窒素ガス中での破断伸びと比較することで水素脆化感受性を評価した。その結果、いずれの時効時間においても試験環境によらず、破断伸びは同程度であり、140℃で時効したAl-Cu-Mg合金では水素脆化は生じていないことがわかった。360h時効した試験片においては、破面に一部粒界割れが認められた。その粒界割れは微細なディンプルとレッジが混在した延性的な様相であった。粒界に沿った無析出帯の幅が狭く、粒界上析出物が微細な場合に、粒内のすべり帯による応力集中の結果として、レッジ形成型の粒界割れが形成されるといわれている。したがってAl-Cu-Mg合金が耐水素脆化特性に優れる理由は粒界近傍組織だけでは説明できないことを示唆している。 また、Zn添加量を増大して高強度化したAl-Zn-Mg-Cu系合金の水素脆化感受性を調査した。120℃で24hの時効処理を施した後に、広いひずみ速度範囲で試験を行った。湿潤大気中では中程度のひずみ速度では擬へき開割れ、低ひずみ速度では粒界割れが観察され、水素脆化が生じた。水素脆化感受性は市販7075アルミニウム合金よりも高くなっており、Zn添加量の増大は高強度化に有効であるが、同時に水素脆化感受性も高くなってしまうことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、平成30年度中に透過型電子顕微鏡によりAl-Cu-Mg合金の粒界近傍組織を観察し、粒界上析出物のサイズや数密度、無析出帯の幅などを定量して、水素脆化挙動との関係を明確にする予定であった。Al-Cu-Mg合金を低温で時効しても耐水素脆化特性は優れることを明らかにできたが、粒界近傍組織の観察が行えておらず、破面形態からの推察にとどまっている。以上のことから、現在までの進捗状況を”やや遅れている”とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は粒界上析出物のサイズや数密度の定量化にまず着手する。透過型電子顕微鏡を用いた観察では、観察視野が限られてしまうため、ガリウムの液体金属脆性を利用して粒界破面を形成させ、高分解能のSEMにて観察する手法を採用する。また、湿潤大気中から侵入する水素量が合金種により異なる可能性がある。重水素をトレーサーとして、各合金の侵入水素量を調査する予定である。
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