研究実績の概要 |
本研究では、Mg-Sc合金について、結晶粒径制御を用いることで、更なる高強度・高延性の達成と室温超弾性を実現し従来軽量合金を凌駕する超マグネシウム合金開発を目的としている。平成30年度は、結晶粒径制御のための知見を得るため、hcp, bcc各相について、様々な強加工を施した際の加工条件と結晶粒径について調査した。その結果の概要を以下に記す。 強加工は、冷間圧延, 高圧ねじり(HPT)加工, 溝ロール圧延, 押出加工の4種類を試した。まず、冷間圧延においては、hcp+bcc二相状態にて冷間圧延し微細二相組織を得た後、bcc単相温度域で熱処理後、急冷することでbcc単相試料を得ようと試みた。しかしながら、高温熱処理により急速に粒成長し、微細粒を有するbcc単相試料は得られなかった。そこで、bcc単相域で冷間加工を施し、焼鈍時間を調節した。その結果、数μm程度の微細粒が得られたが、焼鈍時間を短くすることによるこの手法では、安定して微細組織を得ることが難しいということが分かった。次に、HPT加工については、hcp, bcc各単相試料について、加える回転数を変えて加工を施した。しかしながら、bcc相においてはいずれの回転数でも応力誘起変態が生じ、微細組織は得られなかった。hcp相においても大きな微細化効果はなかった。 また、bcc単相化後、低温下での溝ロール圧延を試みたが、数パス後に脆性破壊した。 最後に、hcp相に対して押出加工を施したところ、混粒ではあるものの数 μm程度の微細粒が確認された。以上より、今後は押出加工において、加工温度と結晶粒径の関係を重点的に調査するとともに加工後の再結晶温度を詳細に調査し、適切な熱処理条件を探索することで微細粒の獲得を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、Mg-Sc合金について、結晶粒径制御を用いることで、更なる高強度・高延性の達成と室温超弾性の実現を目的としており、平成30年度は、hcp, bcc各相について、4種の強加工を施した際の加工条件と結晶粒径について調査した。複数の強加工を試すことができた一方、特にbcc相において微細粒を得ることが難しく、想定していたサブミクロンオーダーまでの微細化が達成できていないため、「やや遅れている」と自己評価した。以下に、各強加工法毎の具体的な研究状況を述べる。 冷間圧延: hcp+bcc二相状態にて冷間圧延後、二相域で5分間焼鈍した試料の結晶粒径を光学顕微鏡にて観察したところ、再結晶直後の組織であり、非常に微細であった。しかしながら、bcc単相を得るため、この試料を690℃で熱処理後急冷すると100 μm程度の当軸粒が得られ、急速に粒成長することが分かった。粒径は熱処理時間を1分まで短縮しても粗大であった。そこで、bcc単相域で冷間加工を施した。その際、焼鈍時間を調節したところ、数μm程度の微細粒が得られた。一方、再現性が悪く、安定して微細組織を得られなかった。これは、焼鈍時間を30秒程度まで短縮することで加熱時間に誤差が生じるためと考えられる。 HPT加工: hcp, bcc各単相試料について、加える回転数を変えてHPT加工を施した。しかしながら、bcc相においては微細化せず、いずれの回転数でも応力誘起変態が生じその量は回転数と比例していた。hcp相においても大きな微細化効果は得られなかった。 溝ロール圧延: bcc単相化後、150℃の低温で溝ロール圧延を施したが、数パス後に脆性破壊した。 押出加工: bcc相は変形抵抗が高く、所属機関に設置されている装置では加工が困難なため、hcp相についてのみ行った。350℃にて押出加工を施すと、数 μm程度の微細粒と粗大粒の混粒が得られた。
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