研究課題/領域番号 |
18K14035
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
猿渡 直洋 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (50806023)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マグネシウム合金 / メカニカルアロイング / 摩擦攪拌プロセス / 時効析出 / ミクロ組織 / 機械的性質 |
研究実績の概要 |
本研究では,マグネシウム合金鋳造材における摩擦攪拌プロセス(以降,FSP)を用いた析出の促進ならびに難燃性等の諸特性向上を目的として,それぞれに効果的に機能する微細粒子の作製ならびに添加技術を開発し,熱処理の効率化ならびに材料特性の改善を目指した検討を行っている. 昨年度は,アルミニウムを13mass%含有するマグネシウム-アルミニウム微細粒子をFSPによりAM60マグネシウム合金中に添加した際の時効硬化挙動について検討した.その結果,微細粒子を添加した試料ではFSP直後の強度(硬さ)が著しく向上した.一方,FSP後に時効処理を実施した試料では,明瞭な時効硬化挙動は確認されず析出に起因した強化量は小さかった. 本年度は,時効処理時のミクロ組織変化について検討した.200℃の時効処理に伴う析出状態の変化をSEMにより観察した結果,微細粒子を添加していない試料では24ksの時効で結晶粒界から析出が開始し,1536ksの時効では結晶粒内にラメラー状の析出が確認された.一方で,微細粒子を添加した試料では3ksという短時間で結晶粒界上に直径が約1μmの微細化合物が析出した.微細粒子添加に伴う母相中のアルミニウム濃度の増加が析出開始時間を短縮したと考えられる.時効時間が24ksまでは結晶粒界上の析出物の数密度が増加するとともに,粒内においても粒状化合物が析出した.192ks以降では,析出物の数密度は増加せず粗大化する傾向が確認された.マグネシウム合金では析出相がラメラー状に形成することによって強度が向上すると考えられるが,微細粒子を添加した場合では結晶粒界に粒状の析出相が形成するため,強度増加が小さかったと考えらる.強度向上のためには,析出量を増大させるだけではなく析出相の形態制御も重要であると言える.また,本年度では研究成果の一部をまとめて1件のポスター発表と1件の口頭発表を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本年度では当初研究計画のうち「1.微細粒子の添加に伴う析出相の析出挙動の解明」についての検討を主に実施した.析出相の構成元素であるアルミニウムを多量に含有する微細粒子をFSPによりAM60マグネシウム合金中に添加したところ,析出の開始時間を短縮することができた.一方で,析出は結晶粒界上に優先的に生じ,かつ析出物の形態が粒状であったため,析出強化量は小さかったと推測される.析出強化量を増大させるためには,粒内析出の促進や析出物の形態制御が必要と考えられる. 当初研究計画の「1.微細粒子の添加に伴う析出相の析出挙動の解明」では,粒内析出の促進を目的として,マグネシウムに対して二相分離する元素の微粒子を内包した微細粒子を添加する方法について検討する計画を立てており,本年度では当該微細粒子の作製について検討した.具体的には,ボールミリングを用いてアルミニウムを13mass%含有するマグネシウム-アルミニウム粉末に,マグネシウムに対して二相分離するニオブの微細粒子を分散させた粉末を作成した.ボールミリング条件の検討を通じて,1μm以下のニオブ微細粒子を5mass%および10mass%含有する粉末を用意することができた. また,当初研究計画のうち「2.元素添加による諸性質付与の実現可能性の検討」についての検討も進めており,マグネシウム合金に難燃性を付与する効果のあるカルシウムを含有する微細粒子の作製も行った. 当初計画では本年度中に研究をまとめる予定であったが,新型コロナウイルスの影響により摩擦攪拌接合装置や各種分析装置等の設備利用が一部制限されたため計画に遅れが生じた.
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今後の研究の推進方策 |
当初研究計画の「1.微細粒子の添加に伴う析出相の析出挙動の解明」については,当初計画の通りにマグネシウムに対して二相分離する元素の微粒子を内包した微細粒子を添加する方法について検討する.具体的には,アルミニウムを13mass%含有するマグネシウム-アルミニウム粉末中にニオブの微細粒子を分散させた粉末をFSPによりAM60マグネシウム合金中に添加する.時効処理に伴う析出挙動の調査を通じて,粒内析出の促進効果や機械的性質に及ぼす影響について検討を深める. 当初研究計画の「2.元素添加による諸性質付与の実現可能性の検討」についても当初計画の通りに,難燃性向上を目指してアルミニウムに加えてカルシウムを含有した微細粒子をFSPによりAM60マグネシウム合金中に添加する.通常の溶融凝固などにより作製したカルシウム添加マグネシウム合金では優れた難燃性が確認されているが,当該合金にアルミニウムを含有する場合,その含有量が多いほど粗大なAl-Ca系化合物が晶出し,機械的性質に悪影響を及ぼすことが知られている.本研究では,カルシウムを含有した微細粒子を摩擦攪拌プロセス時に添加することにより,粗大なAl-Ca系化合物を晶出させることなく優れた機械的性質と難燃性を両立することを目指す.くわえて,難燃性の向上に有効な元素を含有する微細粒子を添加した際の析出挙動についても調査を行う予定である. 本年度は新型コロナウイルスに関連して実験設備の利用や移動に制限が生じ,計画に沿った研究遂行が困難であった.次年度は,本年度の状況を踏まえて各種分析の委託や実験の遠隔操作なども検討する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度において実施した検討により,析出相の構成元素であるアルミニウムを多量に含有する微細粒子を摩擦攪拌プロセスにより添加した場合,時効処理に伴う強度の増大量は予想よりも小さい結果が得られた.本年度の初めには,この点について実験計画を一部変更して原因究明にあたった.具体的には,FSP中の試料の温度測定を行い,添加したアルミニウムがFSP中にマグネシウム母相に固溶し得るか否かについて検討を深めた.これにより,当初計画から若干の遅れが生じた.また,新型コロナウイルスの影響により摩擦攪拌接合装置や各種分析装置等の設備利用や実験を行うための移動について一部制限されたため計画に遅れが生じた.これらを原因とする計画の遅れにより,摩擦攪拌接合装置や各種分析装置等の設備利用費用および旅費が予定よりも低減し次年度使用額が生じた.次年度においては当初計画に沿って実験を進める予定であり,繰り越した次年度使用額は当初予定通り摩擦攪拌接合装置や各種分析装置等の設備利用費および旅費として使用する.また,新型コロナウイルスの影響により参加を予定していた国際会議等が中止となり,旅費についても次年度使用額が生じた.これらについては,各種分析の一部を委託する費用として使用することを検討している.
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