金や白金族金属は、希少性が高く化学的性質に優れることから、宝飾品や貨幣、投資目的の地金の他、電子機器の接点や様々な反応の触媒として使用される。これらの貴金属の需要は、我々の生活水準の向上、クリーンテクノロジーの導入に伴い、益々増加すると予想される。一方で、これらの貴金属の天然資源は、南アフリカやロシアなど限られた地域に偏在しており、我が国の安定的な資源供給のためには、使用済みの電子機器や自動車排ガス触媒のスクラップからのリサイクルプロセスの開発が極めて重要である。 貴金属は化学的に安定である(イオン化エネルギーが大きい)ため、そのリサイクルプロセスにおいて水溶液中へ溶解するには、強力な酸化剤(イオン化剤)を要する。さらに、貴金属は水溶液中での化学的性質が類似しているため、その相互分離には多段かつ複雑な工程が必要である。そのため、貴金属の分離・回収には、強力な酸を含む有害廃液を多量に発生するという問題がある。従って、貴金属のリサイクルにおいては、簡便で有害廃液の低減を可能とする革新的プロセス設計が求められている。こうした現状を踏まえ、本研究では、イオン化する工程を湿式(室温の水溶液系)から乾式(高温の溶融塩系)へ変更し、簡便で有害廃液の発生のない、効率性と環境調和性を兼備した新規リサイクルプロセスの開発に取り組んだ。はじめに、電気化学的に貴金属の溶融塩への溶解現象を解析するためのセルの設計・構築を行った。そのセルを用いて、PtおよびAuについて溶融塩への溶解・析出現象を電気化学的に解析することに成功した。また、多数の元素を含むAu合金から、溶融塩中にAuを高速に選択抽出し、一工程で高純度のAuを析出回収するプロセスを開発した。本プロセスは廃液を一切排出せず、またイオン化剤を消費しないため、貴金属リサイクルプロセスに有効であると期待される。
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