研究課題/領域番号 |
18K14040
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小野 巧 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 産総研特別研究員 (20637243)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 水素結合 / 分子シミュレーション / Eyring理論 / 粘度 / 高温高圧 / Kirkwood-Buff積分 |
研究実績の概要 |
Eyringの絶対反応速度理論に基づいた粘度モデルでは,分子が周囲の束縛を切って中間位置のエネルギー障壁を乗り越えることで流動が生じるものとしている.このときの活性化自由エネルギーは理想部分と過剰部分に分けることができ,この過剰部分を比例因子となるパラメータを導入することで混合の過剰ギブスエネルギーを用いて表現し,状態式や活量係数式と組み合わせる方法が提案されている.この方法は極性溶媒を含む混合系にも適用可能であることが報告されているが,多くの場合において上述の比例因子となるパラメータには1が用いられており,このパラメータの物理的な意味は明確ではないことが指摘されている.また,Eyring理論を用いた粘度モデルの適用は高温高圧下では行われておらず,常温常圧条件と同じパラメータをそのまま適用可能かどうかは不明であった. そこで本研究ではこのEyring理論における活性化自由エネルギーと過剰ギブスエネルギーを関係付けるパラメータの物理的な意味を明らかにし,Eyring理論を用いた粘度モデルの複雑な物質への展開,また高温高圧領域での外装推算を可能とすることを目的とする.本年度は二価アルコール(ジオール)水溶液を対象として100℃,40MPaまでの密度・粘度データの測定を行い,これまでに報告している一価アルコール水溶液との物性挙動の比較を行うとともに,Eyring理論を用いた粘度モデルによる相関を行った.また,状態式にはCubic-Plus-Association状態式の適用を新たに検討した.さらに,分子動力学計算を用いて配位数を中心としたミクロ物性を求め,上述のパラメータに対する支配因子を求めた.アルコール水溶液は,数10Åオーダーの溶液構造(メゾスコピック構造)も組み合わせて解析することが重要と考え,Kirkwood-Buff積分値をもちいた「揺らぎ」の観点からも評価を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高温高圧条件下におけるジオール水溶液の密度・粘度測定の進捗はやや遅れている.これは,当初検討するジオール組成を0.1刻みとすることを予定していたが,測定を行う上でさらに細かく組成を刻むことでジオール種の分子構造の違いが物性挙動に与える影響をより詳細に解析できることが判明し,測定条件が大幅に増加したためである. Eyring理論を用いた粘度モデルの検討は順調に進展している.このモデルでは,最適な状態式と混合測の探索が重要となるが.本研究では広く用いられているPeng-Robinson状態式に加え,会合項を加えたCubic-Plus-Association状態式の適用を試みており,既往の報告例がある条件においては良好に実験値を再現できる可能性を確認している. 分子動力学計算を用いたミクロ物性の評価については順調に進展している.アルコールは,アルキル基,ヒドロキシル基という水和構造が全く異なる官能基からなるため,単純に着目分子周囲の分子を数えただけでは,これらの異なる水和構造が平均化されてしまう.そこで分子動力学計算の特徴を生かし,それぞれの官能基周りを空間的に分割し,その局所的な配位数まで考慮した検討を行っており,この結果については学術誌に投稿準備中である.また,本研究の鍵となるメゾスコピック構造の評価にはKirkwood-Buff積分値を求める必要があるが,常温常圧下の短鎖アルコール水溶液については,分子シミュレーションを用いて実測値を良好に再現できることを確認し学会発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き高温高圧ジオール水溶液の密度・粘度データの測定を行う.現段階では,炭素数4までのジオールを研究対象としている.これらの水溶液の高温高圧条件における物性,特に過剰モル体積や部分モル体積などのミクロ的な溶液構造を反映する物性の挙動を解析しながら測定を行い,疎水基・親水基の位置や数と物性挙動の関係を把握するうえで必要であればジオール種の追加を検討する.ジオール水溶液の密度・粘度測定と並行し,Eyring理論を用いた粘度モデルの適用を行い,データの相関を通してこれまでその物理的意味が明確でなかったパラメータの挙動を明確にする.さらに,分子シミュレーションを用いたミクロ物性の評価を行い,上述のパラメータの支配因子を解明する.これまでに短鎖アルコール水溶液については分子シミュレーションにより,Kirkwood-Buff 積分を適切に表現できることが確認できたため,これをジオール水溶液系に拡張し同様に評価を行う予定である. また,これまでの検討により解析に必要な実験条件が増加しており,測定の高速化が必要となっている.高温下での測定において温度制御性能の向上は測定速度に大きく寄与することから恒温槽の最適化を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
密度測定はレーザードップラー変位計を使用しており,この消耗部品の交換のため物品費を見積もっていた.しかし部品の寿命が想定していたよりも長かったため,当該年度は購入の必要がなかった.この消耗部品は次年度購入予定である.
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