研究課題/領域番号 |
18K14040
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
小野 巧 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 研究員 (20637243)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 水素結合 / 分子シミュレーション / Eyring理論 / 粘度 / 高温高圧 / Kirkwood-Buff積分 |
研究実績の概要 |
アルコール分子はヒドロキシ基(親水基)とアルキル基(疎水基)を持つ両親媒性分子であり、その水溶液は常温常圧から臨界点近傍を含む高温高圧領域まで,広い条件で特異的な物性挙動を示す。この特異的な物性挙動は、アルコール分子と水分子間の引力・斥力的な相互作用のバランスに起因する。したがって、1価、2価アルコール分子の構造の違いはその水溶液の物性挙動に大きな影響を与えるため、これらの物性は分子構造と物性の関係を理解する上で有用な知見となる。 2019年度は200℃、40MPaまでの2価アルコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール)水溶液の密度・粘度の測定を行い、これまでに報告されている1価アルコール水溶液の物性挙動と比較することで、アルコール分子のヒドロキシ基が密度・粘度に与える影響を評価した。200℃以下のアルコール水溶液では、分子間の引力的な相互作用の寄与がそれぞれの純成分の場合よりも大きくなることが知られているが、本研究の結果から2価アルコールではその寄与が1価アルコールよりも小さくなることが明らかになった。水分子は四面体のネットワーク構造を形成し、1価アルコールが加わることでこの構造の形成が促進されることが知られているが、2価アルコールの場合は構造の形成を阻害する可能性があることが示された。 また、既往のデータと本研究で得られたデータを用いて、広い温度・圧力範囲で適用可能な密度・粘度の相関モデルの構築を行った。常温でのアルコール水溶液で検討例があるEyring theoryに基づいたモデルを用いたところ、373 K以下では密度5%以下,粘度7 %以下で相関でき、さらに473Kでもその物性挙動を定性的に表現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予定していた473 K以上の温度条件における2価アルコール水溶液の密度・粘度測定がやや遅れている。アルコール分子の構造が物性に与える影響を調べるためには、広い温度・圧力範囲での物性挙動を把握することが効果的であり、計画では1価アルコール水溶液の物性の蓄積がある673 Kまでの測定を予定していた。しかし、473 K以上ではアルコールの熱分解の影響がみられ、現在使用している装置では測定が困難であることが明らかとなった。測定に使用している装置は、試料を流通させながら測定することで高温条件での熱分解を防いでいるが、473 K以上では想定していた以上に測定試料の滞在時間を短くする必要があることがわかった。そこで現在、測定部の改良を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
測定時の試料の熱分解を抑制するための装置改良を行い、250℃以上での2価アルコール水溶液の密度・粘度データの蓄積を行う。熱分解を抑制するためには装置内での試料の滞在時間を短くする必要があるが、本測定で用いている粘度測定法(毛細管法)では試料の流通速度には制限がある。そこで、測定部を小型化することで滞在時間の短縮を試みる。 新たに蓄積したデータを用いて、Eyring理論+状態式+混合測を組み合わせたモデルから密度・粘度の相関を行い、さらに推算手法の確立に取り組む。これまでに、状態式としてCubic plus Association (CPA)状態式を用いた検討を行っており、その優位性を確認してきた。CPA状態式は分子の会合状態を考慮した会合項を含み、アルコール水溶液のような分子の会合の寄与が大きい系に対して適用性が高いと考えられるが、会合項は分子の会合状態の定義の仕方によって様々な表現方法がある。そこで、広い温度圧力範囲のアルコール水溶液の物性を表現可能な会合状態の定義の仕方を検討するとともに、会合項に含まれるパラメータから各種アルコール水溶液の会合状態を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
密度測定はレーザードップラー変位計を使用しており,この消耗部品の交換のため物品費を見積もっていた.しかし部品の寿命が想定していたよりも長かったため,当該年度は購入の必要がなかった.この消耗部品は次年度購入予定である.
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