ナノ粒子の物性に大きな影響を与える粒子径分布を制御するためには,ナノ粒子合成過程における核生成挙動の理解が必要不可欠である。本研究ではマイクロリアクタを用いた均一な反応場の創出,および核生成の確率論的モデリングにより,ナノ粒子の核生成過程の系統的な理解を試みる。本年度は1)マイクロリアクタによるAuナノ粒子合成実験,2)メタダイナミクス法によるEnhanced samplingシミュレーション,3)確率論的に生じる核生成過程のモデル化を並行して行った。1)還元剤をNaBH4とし,Auイオン源,還元剤,保護剤濃度がAuナノ粒子径分布に与える影響を検討した。濃度が高くなる(Auの過飽和度が高くなる)につれ,粒径が小さく,またシャープな粒径分布をもつAuナノ粒子が得られ,これは古典的核生成理論の定性的な説明に一致する。しかし,ある濃度よりも高くなると,粒径が大きく多分散となった。これはNaBH4が強力な還元剤であるため,高濃度下では反応速度がマイクロリアクタの混合速度を上回り,空間的に不均一な濃度場が生じたことが原因であると考えられる。2)メタダイナミクス法の正しい実装を確認するため,ナノ細孔内における気液の凝縮現象に適用し,シミュレーションを実行した。メタダイナミクス法により計算される凝縮過程の自由エネルギー変化は,Gauge Cell法から計算される連続なS字等温線の積分により得られる自由エネルギー変化と良い一致を示したことから,計算の妥当性を確認した。3)最初に発生する核のみが確率論的に生じ,以後の核は決定論的に生じるとしたモデルと,全ての核が確率論的に生じるとした2つのモデルを,核生成過程のポピュレーションバランスから構築した。これらのモデルを実験結果やシミュレーション結果に適用し,パラメータの決定することで,異なる実験系における核生成時間の予測が可能になると期待される。
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