油脂を中心とするバイオマス資源から石油代替燃料・化学品原料として利用可能な炭化水素を製造することを目指して、石油精製技術の一つである流動接触分解(FCC)プロセスの利用に着目した。バイオマスからの炭化水素製造においてはバイオマス中に含まれる酸素の効率的な除去が重要であるが、FCCプロセス内で進行する水素移行反応を活用することで、外部水素を導入せずとも炭素損失を抑制した水としての脱酸素化が進行することが期待される。そこで本研究では、水素移行反応を利用した脱酸素反応機構の解明や、反応に強く影響を及ぼす触媒因子の抽出を目的とした。前年度までに油脂の脱酸素化に対して水素移行反応が寄与することが確認できたので、令和元年度は反応機構の更なる解明と触媒成分の役割の解明に取り組んだ。 含酸素化合物を含む系での水素移行反応において優先的に水素を受容する化合物について調査した結果、含酸素化合物が水素を受容して水を生成する脱酸素反応は、オレフィンの水素化よりも優先して進行することを確かめた。この結果から、油脂の接触分解反応において水素移行反応を活性化することで、生成する炭化水素の付加価値を下げることなく効率的な脱酸素化を促進できる可能性が示された。 FCC触媒を構成する各成分(ゼオライト及びマトリックス)が油脂の脱酸素化に及ぼす影響について調査した。その結果、炭素鎖の分解は主にゼオライト上で進行するのに対し、脱酸素反応はマトリックス材料上でも進行することが示唆された。さらに、水素移行反応を利用した水としての脱酸素化の進行には、ゼオライトとマトリックスの相互作用が寄与する可能性が示された。 以上の結果から、本研究では、油脂の接触分解による炭化水素製造において効率的な脱酸素化を促進するための反応・触媒設計指針を獲得することができた。
|