研究課題/領域番号 |
18K14056
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
桑原 泰隆 大阪大学, 工学研究科, 助教 (40635330)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ナノ構造触媒 / アミノポリマー / 金属ナノ粒子 / 多孔質材料 / CO2変換 |
研究実績の概要 |
中空シリカの中空空間に種々の触媒活性種を内包した構造体(Yolk-shell構造体)は、i) 巨大ゲスト分子の内包、ii) 内包した触媒活性種の凝集抑制・触媒再利用性の向上、iii) シェル構造の精密制御による分子選択性の付与といった、高度な触媒を設計する上での魅力的な数々の特性を有している。本研究では、中空シリカの中空空間に金属ナノ粒子とともに塩基性アミノポリマーを内包し、中空シリカのナノ空間と塩基性アミノポリマーによって誘起される特殊反応場を有するYolk-shell構造触媒の開発と触媒反応への応用を行った。 アミノポリマーの一つであるpoly(ethyleneimine)(PEI)と金属ナノ粒子の凝集体を鋳型とすることで、金属ナノ粒子とPEIが内包された中空シリカ構造体を一段で合成する手法を開発した。水素化能を有するPdナノ粒子とPEIを内包した中空シリカ構造体をアルキンの部分水素化反応に応用したところ、アミノポリマーの強い被毒作用により高いアルケン選択性を示すことを見出した。また、シリカシェルの保護効果により触媒性能の低下なく繰り返し利用できることも確かめられた。アミノポリマーの種類や分子量が構造・触媒性能に与える影響、X線や放射光を利用した触媒活性種の局所構造・電子状態についても明らかにしている。 また、アミノポリマーはアニオン性分子に対する吸着・濃縮作用を有している。Pdナノ粒子とPEIを内包した中空シリカ構造体をCO2の水素化反応に応用したところ、100℃、2.0 MPaの条件下において定量的にCO2をギ酸へと変換することができた。最適なアミノポリマーの選択、PdとAgとの合金化などにより活性は著しく向上し、22hで触媒回転数(TON) 2500以上という既存の触媒を凌駕する活性が発現することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成30年度当初の目標であった、1) アミノポリマー内包Yolk-shell構造触媒の開発、2) 触媒反応への応用を実施することができた。電子顕微鏡や各種分光分析手法を駆使して粒子形成過程を追跡することで、Yolk-shell構造体の形成メカニズムも明らかにしている。ターゲット反応の一つである“アルキンの部分水素化反応”に関しては反応を実施するだけでなく、当初平成31年度に実施予定であったX線や放射光を利用した測定による触媒活性種の局所構造・電子状態の解析についても踏み込んで実施することができ、得られた成果は既にアメリカ化学会ACS Catalysis誌に発表している。もう一つのターゲット反応である“CO2の水素化によるギ酸合成反応”に関しても、アミノポリマーの最適化、Pdナノ粒子の合金化を検討することで、当初の目標であった「100℃以下、H2 10気圧以下での効率的ギ酸合成」を既に達成しており、今後、触媒構造の最適化により更なる触媒活性の向上が見込める。以上の理由から、当初の計画以上に進展していると判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度の研究実施計画に沿い、各種分光分析を通じた触媒の詳細なキャラクタリゼーションを行うとともに、反応メカニズムの解明と反応中にアミノポリマーが果たす役割(吸着濃縮効果、電子供与効果、塩基助触媒効果等)について明らかにする。特に、その場X線分析を用いた金属活性種の構造変化や、その場赤外分光分析を用いた基質(CO2)吸脱着・反応過程の追跡を行う。量子化学計算を利用した金属ナノ粒子表面へのアミノポリマーの配位状態や、金属ナノ粒子の電荷密度の変化、反応基質の吸着・配位状態のシミュレーションについても検討を行う。これら結果と、触媒活性・構造との相関を見出し、更に高活性な触媒開発につなげるとともに、アミノポリマーを鍵物質とするYolk-shell構造触媒の設計論を体系化する。 また、平成30年度に得られた結果より、中空シリカ触媒はCO2からのギ酸合成反応に活性を示すものの、塩基性水溶液中で反応を行うためシリカシェルの溶解に伴う構造および活性劣化が課題として浮き彫りとなった。そこで、シリカシェル形成時にSi源として有機シランカップリング剤を混合することでシェルに有機官能基を導入し、耐アルカリ性・再利用性を向上させることで実用化に資するCO2還元触媒の創製を目指す。 更に、Ptナノ粒子とアミノポリマーを内包した中空シリカ触媒を合成し、より高難度なCO2水素化による低級アルコール(メタノール、エタノール)合成反応についても検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初平成30年度に赤外分光装置用加熱拡散反射装置の購入を予定していたが、測定に必要な仕様を満たす装置は本予算で購入することができないことが判明したため購入を中止した。当該の実験については、条件を変更し既存の装置を駆使して実施する、あるいは依頼分析測定として実施する予定である。 翌年度に繰り越した助成金および翌年度分として請求する助成金は、依頼分析測定や赤外分光測定の際に必要となるKBr板や同位体ガス購入に係る費用に充てる予定である。
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