研究課題/領域番号 |
18K14058
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
石川 理史 神奈川大学, 工学部, 助教 (60813350)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 結晶性複合酸化物 / 選択酸化 / 構造制御 / 異金属導入 |
研究実績の概要 |
結晶性斜方晶または三方晶Mo3VO11.2複合酸化物(Orth-MoVOまたはTri-MoVO)は5, 6および7員環などを含む複雑な結晶構造を形成する。近年我々はMoVO構造内に様々な異金属元素を導入する手法を開発し、これにより触媒活性を制御できることを見出している。 プロパンアンモ酸化はアクリロニトリル(AN)を合成する手法として近年発展が著しく、最近ではOrth-MoVOと同様の結晶構造を有するMoV(Te, Sb)NbO触媒を用いることで工業化が達成されている。本年度の研究により、ポスト処理によってTri-MoVOへSbを導入できること、Sb導入後のTri-MoVOを熱処理することでOrth-MoVSbOが形成することを発見した。Tri-MoVSbOはSbを構造中7員環組織に有しており、Orth-MoVSbOは構造中6員環組織にSbを有していた。SbサイトをTri-MoVO構造で規定し、これの相変化によりOrth-MoVSbOを形成することで、本構造中のSb位置を制御できた事実は興味深い。この手法により得られたOrth-MoVSbOは高いプロパンアンモ酸化触媒活性を示した。 アクロレイン選択酸化では、Mo-V-O複合酸化物に種々の金属(W, Cu等)を添加した触媒が工業的に用いられる。これまでの研究からMoVO構造中の7員環組織が本反応の活性点構造であることを報告している。本年度の研究によりTri-MoVOの結晶構造中にWを導入できた(MoVWO)。WはTri-MoVO構造中の5員環組織中のMoと置換していた。MoVWOを用いて本反応を行ったところ、Wの添加により水分圧減少による触媒活性減少を軽減できることが分かった。Wの導入により触媒の酸性質が変化したことに起因すると推察される。この試みにより、これまでほぼ解明されていなかった工業触媒中のWの触媒作用を明確化できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
プロパンアンモ酸化反応やアクロレイン選択酸化反応における工業用触媒のモデル触媒であるOrth-MoVOおよびTri-MoVOへ、結晶構造を保ったまま様々な異金属元素を導入できた。これにより上記触媒反応における触媒活性制御が可能となっただけでなく、触媒活性変化の原因を、結晶構造と触媒活性の関係を調べることで解明できた。今回得られた成果は今後の工業触媒設計に合理的な設計指針をもたらすと確信する。また、本年度は異金属元素導入にとどまらず、その導入位置制御法の可能性にも触れることができた。この可能性を発展できれば、まさにナノレベルで触媒機能を制御できる。 また、今年度はMoVO合成のエッセンスを抽出することで、MoVOのVを異金属元素に置換することができた。これにより合成できたMoFeO触媒は、Moによる5員環ユニットとFeの金属酸素八面体の配列によりMoVO様の構造を形成していた。このMoFeO触媒はメタノール選択酸化反応に対し、工業用触媒として使用されるFe2Mo3O12複合酸化物よりも高い触媒性能を発揮した。以上のように、MoVOへの異金属元素導入だけでなく、骨格金属置換が可能となった。今後の研究の進展が期待できる。 また、本研究の対象にしている、ε-Keggin型のポリ酸を基盤とした複合酸化物について、昨年度までに、Mo-Co複合酸化物(ε-MoCoO)へFe2+を導入することにより特異な酸素吸着能を付与できることを見出している。本年度の研究により、本物質へFe2+を導入することで、乳酸エチル酸化反応における酸化活性が大きく変化することが分かった。本物質における触媒機能制御法を見出せた意義は大きい。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究で、MoVOの系では、アクロレイン選択酸化反応用触媒において添加金属として使用されるWやCuを、Orth-MoVOおよびTri-MoVOの結晶構造を保ったまま、構造中に導入できるようになった。今後はこの研究をより一層推進し、工業用Mo-V系触媒の組成をOrth-MoVOまたはTri-MoVOの単一相で表現する。この試みにより、工業用触媒の触媒作用場における、真の姿を明らかにする。 今年度の研究により、MoVOと同様に5, 6および7員環等の局所構造を有したMo-Fe複合酸化物が合成できた。また、予備実験的にではあるが、Feと同様、CrやTiの導入も可能であることを見出している。MoVOと同様の局所構造が様々な金属元素の組み合わせでも形成可能である事実は興味深く、これから先、新たな酸化触媒の一群として発展が期待できる。 ε-Keggin型のポリ酸を基盤とした複合酸化物では、Fe2+の導入によってε-MoCoOの酸化触媒能が変化したことを発見している。Fe2+の導入により分子酸素活性化能が付与され、動的反応条件下における触媒構成金属酸化数が変化したことに起因すると考えている。添加金属が触媒のレドックス能を変化させ、触媒活性を変化した様子を明瞭に示した例の一つであろう。ここで見られた活性変化を考究することで、酸化反応における添加金属作用の一層深い理解が可能になると思われる。今後の研究課題として魅力的な題材である。
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