グラム陰性細菌Acinetobacter sp. Tol 5はプラスチックやガラス、金属など様々な表面に対し強固に接着する。Tol 5の高い接着性は、細胞表層に存在するナノファイバー状のタンパク質AtaAによるものであることが明らかになっている。非特異的ながら迅速かつ強固であるというAtaAの接着は、他のタンパク質とは一線を画すものである。既知のメカニズムでは説明しくいAtaAの非特異的接着機構の解明は、特異的相互作用と非特異的相互作用の違い、さらには生体分子と材料表面との相互作用の新しい機構の発見に繋がると考えられる。そこで本研究では、材料非特異的でありながら高い接着性を示すAtaAの接着機構を明らかにすることを目的とし、令和2年度は接着ドメインの再構成を実施した。 前年度に得られた知見に基づいて、接着に関わるループ領域とその近傍のアミノ酸残基を複数同時に元来接着性を示さないドメインに組み込み、Tol 5のataA欠損株で発現させた。構築した変異体の細胞表層発現量を抗AtaA抗血清を用いた免疫染色により確認したところ、野生型と同等だった。変異体を発現させた細胞の接着性をプレート付着試験により調べたところ、構築した変異体のうちひとつで大幅に向上したことが明らかになった。さらにその変異体の接着性は、AtaAの接着性を阻害することが分かっているカザミノ酸溶液中で低下した。以上より、接着ドメインの再構成に成功した。
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