2019年度では,2018年度に設計された測定システムによって培養中に細胞凝集体にかかる加速度を測定した振盪条件の浮遊懸濁培養を,ヒトiPS細胞株において行い,トリパンブルー色素排除法を用いた細胞数計数による増殖比と,LDH流出量に基づく累積の死細胞数の測定を行い,測定によって得られた加速度との相関の比較を行った. 増殖比との関係性の観点から時間平均加速度においては,500~1000 mm/s2近傍に最適値が得られた.得られた凝集体の形態から,低加速度域では少数の巨大凝集体が形成されており,凝集が活発に発生した結果であると考えられた.一方,高加速度域では,死細胞とみられる浮遊細胞が多数観察されたため,加速度を引き起こしていると考えられる剪断応力によって細胞死が引き起こされ,増殖が遅延したものと考察できた.さらに,累積死細胞数との関係性の観点では,時間平均加速度が増加するに従って累積死細胞数が増加する傾向にあり,高加速度領域では,加速度を引き起こしている剪断応力が増大するに従って細胞死が発生していることが示唆された. 以上の検討により,高速度カメラおよびトラッキングシステムを用いて得られた動画から細胞にかかる時間平均加速度を測定することによって,その培養条件における細胞増殖・細胞死について相関のあるパラメータを得ることができ,剪断ストレスを推定することができるものと考えられた. 加えて,剪断応力に対する耐性向上を目的として,糖鎖型ポリマーによる培地の塑性流体化させた上で培養を行なったところ,高い剪断応力が得られた攪拌条件であっても細胞死が有意に抑制されることが明らかとなった. 現在,本成果をもとに英文科学雑誌に投稿する論文の執筆を行なっている.
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