研究課題/領域番号 |
18K14065
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
相馬 悠希 九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (80781955)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 代謝工学 / 微生物代謝 / バイオプロダクション / バイオプロセス / 合成生物学 / 人工遺伝子回路 / 進化工学 / 代謝フラックス |
研究実績の概要 |
近年,再生可能資源であるバイオマスを原料として,微生物などを用いたバイオプロセスによる有用物質生産の工業化が注目されているが,多くの場合において実用コストを満足する十分な生産性を得られていない.バイオプロセスにおける総合的な生産性を高めるためには,「総菌体数 (生産ユニット数) X 比生産性 (生産ユニットあたりの生産性) 」を最大化する必要がある.しかしながら,宿主内在性代謝経路と物質生産経路は直接的な競合関係にあるため,「菌体増殖能の高い表現型」と「物質生産性の高い表現型」はトレードオフ関係にあり,バイオプロセスにおける生産性の向上の障害となっている.本研究は,バイオプロセスの進行度に応じて表現型を最適に自己制御可能な微生物の設計・構築を目的とした新規代謝工学戦略の開発に取り組むことで,この問題を解決する.具体的には,内在性代謝フラックス容量の拡張と代謝フラックスの効率的な物質生産系への転換により,バイオプロセスの効率化に寄与する微生物代謝制御のリプログラムを実現する. さまざまな基幹中間代謝物由来の有用化合物生産に適用可能な「代謝トグルスイッチライブラリ」を構築するとともに,これらを実装した大腸菌の最大増殖速度を向上させるための「実験室適応進化 (Adoptive Laboratory Evolution; ALE)」を実施した.その結果,その結果,何れの株においても,継代回数の進行に伴って比増殖速度の増大が確認された. また,各酵素の変異体ライブラリをランダム変異導入によって作製し,各代謝酵素の欠損株に対して恒常的酵素発現を示す1コピープラスミドによって導入して低発現量でも高い代謝活性を示す「炭素中央代謝高活性酵素ライブラリ」の構築に並行して取り組んだ.現在,ライブラリから有力な変異体のスクリーニングを実施している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目的の標的化合物生産に利用・転用可能な代謝フラックスは宿主内在性の代謝フラックス容量に依存する. つまり,たとえ代謝フラックスの制御過程を理想的に最適化したとしても,宿主本来の代謝フラックス容量が十分でなければ,高い生産性を得ることは難しい.本研究課題の核心をなす学術的「問い」の1つは,「動的代謝工学ツール」によって物質生産に転用可能な微生物宿主本来の大財政代謝フラックス容量をどのようにして,どこまで増強することが可能であるかという点にある.つまり,本研究は,自然淘汰によって選抜される菌体増殖能を上回る,より効率的な菌体増殖を成す代謝制御の設計と再構成手法の探索となる. 現在までに,申請当初は完全に実証できていなかった研究・実験コンセプトが実証されつつある.代謝トグルスイッチライブラリを構築するとともに,これらを実装した大腸菌の最大増殖速度を向上させるための「実験室適応進化 (Adoptive Laboratory Evolution; ALE)」を実施した結果,何れの株においても,継代回数の進行に伴って比増殖速度の増大が確認された.現在,進化系統株の機能評価を実施している.また,各酵素の変異体ライブラリをランダム変異導入によって作製し,各代謝酵素の欠損株に対して恒常的酵素発現を示す1コピープラスミドによって導入して低発現量でも高い代謝活性を示す「炭素中央代謝高活性酵素ライブラリ」の構築が並行して進行している.何れも当初の狙いどおりに研究課題は進行しており,一定の成果が挙がっている.このような理由から,本研究は概ね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
引き続き「代謝トグルスイッチライブラリ」の拡張を進めるとともに,これらを実装した大腸菌の最大増殖速度を向上させるための「実験室適応進化 (Adoptive Laboratory Evolution; ALE)」を実施する.ALEは,継代培養を繰り返すことで特定環境条件やストレスに適応して効率的に増殖な個体を選抜可能な進化手法である.これにより,高い菌体増殖能を示す表現型と効率的な代謝フラックス転換能を示す表現型の切り替えを塑的に制御可能な「表現型制御素子実装ライブラリ」の構築に取り組む.また,これらは,基幹中間代謝物由来の有用化合物生産性評価に加え,メタボローム解析によって代謝状態・表現型の変動を詳細に評価する.動的な遺伝子発現制御を摂動とする際の代謝状態への影響を評価することで,バイオプロセスの各過程に適切な表現型を実現するために必要な代謝改変方策を探索し,これに基づいて逐次的な回路の再設計を実施するとともに,実験室進化プロセスにおける代謝動態制御ネットワークのリプログラムの過程の解明に取り組む.また,引き続き低発現量でも高い代謝活性を示す「炭素中央代謝高活性酵素ライブラリ」の構築に並行して取り組む.それぞれの手法で得られた変異体を宿主として,上述した代謝トグルスイッチライブラリを導入し,メタボローム解析によって標的代謝経路の遮断に伴う各前駆物質の細胞内濃度の変動をモニタリングする.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は特定の実験に対して,消耗品費と所要人件費として合わせて約40万円計上していたが,該当試薬等を使用する予定であった実験を次年度に持ち越した.この使用予定であった試薬は保存期間が短いため,購入も次年度に持ち越した.この該当予算としていた約40万円を次年度使用額として繰越したため.
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