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2019 年度 実施状況報告書

高効率バイオプロセスに向けた代謝制御リプログラムによる微生物表現型の可塑的制御

研究課題

研究課題/領域番号 18K14065
研究機関九州大学

研究代表者

相馬 悠希  九州大学, 生体防御医学研究所, 助教 (80781955)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2021-03-31
キーワード代謝工学 / 微生物代謝 / バイオプロダクション / バイオプロセス / 合成生物学 / 人工遺伝子回路 / 進化工学 / 代謝フラックス
研究実績の概要

近年,再生可能資源であるバイオマスを原料として,微生物などを用いたバイオプロセスによる有用物質生産の工業化が注目されているが,多くの場合において実用コストを満足する十分な生産性を得られていない.バイオプロセスにおける総合的な生産性を高めるためには,「総菌体数 (生産ユニット数) X 比生産性(生産ユニットあたりの生産性) 」を最大化する必要がある.しかしながら,宿主内在性代謝経路と物質生産経路は直接的な競合関係にあるため,「菌体増殖能の高い表現型」と「物質生産性の高い表現型」はトレードオフ関係にあり,バイオプロセスにおける生産性の向上の障害となっている.本研究は,バイオプロセスの進行度に応じて表現型を最適に自己制御可能な微生物の設計・構築を目的とした新規代謝工学戦略の開発に取り組むことで,この問題を解決する.
具体的には,内在性代謝フラックス容量の拡張と代謝フラックスの効率的な物質生産系への転換により,バイオプロセスの効率化に寄与する微生物代謝制御のリプログラムを実現する.
今年度は,昨年度に引き続き,様々な基幹中間代謝物由来の有用化合物生産に適用可能な「代謝トグルスイッチライブラリ」を構築するとともに,これらを実装した大腸菌の最大増殖速度を向上させるための「実験室適応進化 (Adoptive Laboratory Evolution; ALE)」を実施した.その結果,継代回数の進行に伴って比増殖速度の増大が確認された.
また,各酵素の変異体ライブラリをランダム変異導入によって作製し,各代謝酵素の欠損株に対して恒常的酵素発現を示す1コピープラスミドによって導入して低発現量でも高い代謝活性を示す「炭素中央代謝高活性酵素ライブラリ」の構築に並行して取り組み,ライブラリからの有力な変異体のスクリーニングにおおよそ目途が立った.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

目的の標的化合物生産に利用・転用可能な代謝フラックスは宿主内在性の代謝フラックス容量に依存する. つまり,たとえ代謝フラックスの制御過程を理想的に最適化したとしても,宿主本来の代謝フラックス容量が十分でなければ,高い生産性を得ることは難しい.本研究課題の核心をなす学術的「問い」の1つは,「動的代謝工学ツール」によって物質生産に転用可能な微生物宿主本来の大財政代謝フラックス容量をどのようにして,どこまで増強することが可能であるかという点にある.つまり,本研究は,自然淘汰によって選抜される菌体増殖能を上回る,より効率的な菌体増殖を成す代謝制御の設計と再構成手法の探索となる.
現在までに,申請当初は完全に実証できていなかった研究・実験コンセプトが実証されつつある.今年度は昨年度に続き,代謝トグルスイッチライブラリを構築するとともに,これらを実装した大腸菌の最大増殖速度を向上させるための「実験室適応進化 (Adoptive Laboratory Evolution; ALE)」を実施した.また,各酵素の変異体ライブラリをランダム変異導入によって作製し,各代謝酵素の欠損株に対して恒常的酵素発現を示す1コピープラスミドによって導入して低発現量でも高い代謝活性を示す「炭素中央代謝高活性酵素ライブラリ」の構築が並行して進行している.何れも当初の狙いどおりに研究課題は進行しており,一定の成果が挙がっている.このような理由から,本研究は概ね順調に進展しているといえる.

今後の研究の推進方策

「代謝トグルスイッチライブラリ」の拡張を進めるとともに,これらを実装した大腸菌の最大増殖速度を向上させるための「実験室適応進化
(Adoptive Laboratory Evolution; ALE)」株の幹中間代謝物由来の有用化合物生産性評価およびメタボローム解析を実施する.これらの解析によって,構築した各種菌体の代謝状態・表現型の変動を詳細に評価する.動的な遺伝子発現制御を摂動とする際の代謝状態への影響を評価することで,バイオプロセスの各過程に適切な表現型を実現するために必要な代謝改変方策を探索し,これに基づいて逐次的な回路の再設計を実施するとともに,実験室進化プロセスにおける代謝動態制御ネットワークのリプログラムの過程の解明に取り組む.また,引き続き低発現量でも高い代謝活性を示す「炭素中央代謝高活性酵素ライブラリ」の構築に並行して取り組む.それぞれの手法で得られた変異体を宿主として,上述した代謝トグルスイッチライブラリを導入し,メタボローム解析によって標的代謝経路の遮断に伴う各前駆物質の細胞内濃度の変動をモニタリングする.

次年度使用額が生じた理由

これまでに,実験室適応進化株および各代謝酵素欠損株の構築を実施してきた.その結果,代謝改変が示唆される興味深い多くの株の取得に成功した.来年度は,これらの菌株を用いたメタボローム解析を実施する計画であるが,評価対象とする菌株が予想以上に増えたため,急遽メタボローム解析用の試薬・消耗品費に今年度の予算を充てることに計画変更した.また,3月末に参加を計画していた学会や研究会がコロナの影響でキャンセル(あるいはみなし開催)となったため,旅費においても一部計画が変更となった.

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2020 2019

すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (3件) 産業財産権 (1件)

  • [雑誌論文] Enhancement of acetyl-CoA flux for photosynthetic chemical production by pyruvate dehydrogenase complex overexpression in Synechococcus elongatus PCC 7942.2020

    • 著者名/発表者名
      Hirokawa, Y., Kubo, T. (co-first author), Soma, Y., Saruta, F., Hanai, T.
    • 雑誌名

      Metab. Eng.

      巻: 57 ページ: 23-30

    • DOI

      10.1016/j.ymben.2019.07.012.

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Synthetic microbial consortium with specific roles designated by genetic circuits for cooperative chemical production.2019

    • 著者名/発表者名
      Honjo, H., Iwasaki, K. (co-first author), Soma, Y., Tsuruno, K., Hamada, H., Hanai, T.
    • 雑誌名

      Metab. Eng.

      巻: 55 ページ: 268-275

    • DOI

      10.1016/j.ymben.2019.08.007.

    • 査読あり
  • [学会発表] 油糧糸状菌 Mortierella alpina の分子育種による遊離脂肪酸生産株のリピドーム解析2020

    • 著者名/発表者名
      島田 良美1,下平 武彦2,相馬 悠希2,和泉 自泰2,安藤 晃規1,岸野 重信1,阪本 鷹行3,馬場 健史2,小川 順1,櫻谷 英治3
    • 学会等名
      日本農芸化学会 2020年度大会
  • [学会発表] 異なる人工遺伝子回路持つ二つの大腸菌による共培養系の構築2019

    • 著者名/発表者名
      岩崎 建史朗1,本庄 宏1,相馬 悠希2,鶴野 圭悟1,盧 鎮栄1,濱田 浩幸1,花井 泰三1
    • 学会等名
      第71回 日本生物工学会大会
  • [学会発表] 次世代定量メタボローム解析に資する安定同位体標識内部標準品群調製法の開発2019

    • 著者名/発表者名
      相馬 悠希1,2 ,藤原 由梨2,高橋 政友1,後藤 麻衣子1,下平 武彦1,池田 明夏里3,寺内 勉3,和泉 自泰1,2,馬場 健史1,2
    • 学会等名
      第71回 日本生物工学会大会
  • [産業財産権] 質量分析用標識組成物,代謝物の定量分析法,及び代謝物の動態解析法2019

    • 発明者名
      脇村明夏里,寺内勉,馬場健史,和泉自泰,相馬悠希
    • 権利者名
      脇村明夏里,寺内勉,馬場健史,和泉自泰,相馬悠希
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2019-090121

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公開日: 2021-01-27  

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