バイオプロセスにおける総合的な生産性を高めるためには,「総菌体数 (生産ユニット数) X 比生産性(生産ユニットあたりの生産性) 」を最大化する必要がある.しかし,宿主内在性代謝経路と物質生産経路は直接的な競合関係にあるため,「菌体増殖能の高い表現型」と「物質生産性の高い表現型」はトレードオフ関係にあり,バイオプロセスにおける生産性の向上の障害となっている.本研究は,バイオプロセスの進行度に応じて表現型を最適に自己制御可能な微生物の設計・構築を目的とした新規代謝工学戦略の開発に取り組むことで,この問 題を解決する.内在性代謝フラックス容量の拡張と代謝フラックスの効率的な物質生産系への転換により,バイオプロセスの効率化に寄与する微生物代謝制御のリプログラムを実現する. 今年度は,様々な基幹中間代謝物由来の有用化合物生産に適用可能な「代謝トグルスイッチライブラリ」を構築するとともに,これらを実装した大腸の最大増殖速度を向上させるための「実験室適応進化 (Adoptive Laboratory Evolution; ALE)」を実施し継代回数の進行に伴って比増殖速度の増大が確認された菌株に対してメタボローム解析による代謝ネットワーク解析を実施した.その結果,炭素中心代謝経路のいくつかの代謝経路において活性亢進が確認された.また,各酵素の変異体ライブラリをランダム変異導入によって作製し,各代謝酵素の欠損株に対して恒常的酵素発現を示す1コピープラスミドによって導入して低発現量でも高い代謝活性を示す「炭素中央代謝高活性酵素ライブラリ」の構築に並行して取り組み,ライブラリからの有力な変異体のスクリーニングし,同じくメタボローム解析による代謝ネットワーク解析を実施した.その結果,有力株ではタンパク質合成不可の軽減に起因すると考えられるアミノ酸レベルが向上していることが明らかになった.
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