研究実績の概要 |
高等植物などが生産する高付加価値な二次代謝産物を、酵母により安価に生産する技術の確立が期待されている。研究代表者は既往の研究で、10段階以上もの複雑な代謝経路を簡便に最適化できる独自技術であるグローバル代謝工学を開発した。本研究では、この遺伝子発現量最適化技術を駆使し、植物二次代謝産物を高効率に生産することを目指す。 今年度は、グローバル代謝工学を用いて、酵母による、植物二次代謝産物であるパチョロールの生産を試みた。パチョロールは、パチュリの葉に含まれるセスキテルペンアルコールで、一般的には、水蒸気蒸留法で抽出される。しかし、パチュリからはわずかな量のパチョロールしか得られず、水蒸気蒸留法は消費エネルギー量が大きいという問題がある。従って、組換え微生物を利用したパチョロールの生産が期待されている。既往の研究では、酵母やコリネ型細菌などを用いたパチョロールの生産が検討されている。 本研究では、酵母において、パチョロール合成に関与する9つの遺伝子(ERG10, ERG13, tHMG1, ERG12, ERG8, ERG19, IDI1, ERG20, PTS)の発現を、グローバル代謝工学により最適化した。作製した酵母YPH499/PAT167/MVA442によるパチョロールの生産では、生産濃度42.1 mg/L、生産速度19.8 mg/L/d、収率2.05 mg/g-glucoseを達成した。これらの値は、これまでに報告されている組換え微生物による生産例の中でも高いものであった。また、パチョロール合成に関与する9つの遺伝子の中では、特にERG20、tHMG1、ERG13、ERG19の4つの遺伝子の発現が重要であることが示唆された。本研究の成果は、他の植物二次代謝物の生産にも応用可能であると期待できる。
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