研究実績の概要 |
高等植物などが生産する高付加価値な二次代謝産物を、酵母により安価に生産する技術の確立が期待されている。研究代表者は既往の研究で、10段階以上もの複雑な代謝経路を簡便に最適化できる独自技術を開発した。本研究では、この遺伝子発現量最適化技術を駆使し、植物二次代謝産物を高効率に生産することを目指した。昨年度までの研究において、疎水性植物二次代謝産物の発酵生産に用いる抽出有機溶媒への耐性を向上させることが重要であることが明らかとなった。一般に、酵母のストレス耐性には不特定多数の遺伝子が関与しており、特定の遺伝子の発現量や活性の変化のみで耐性を向上させるのは困難である。既往の研究では、点変異や構造変異といったランダム変異の導入により、酵母の各種ストレス耐性が向上することが報告されている。これらの変異導入は、形質の変化の仕方が異なるため、単独の変異導入では得られる変異体ライブラリーの多様性に欠ける。そこで、点変異・構造変異を同時に導入し、それぞれの利点を活かすことで、より多様性に富んだ変異体ライブラリーの構築が期待できる。 本研究では、多様性に富んだ酵母変異体ライブラリーの構築を可能にする、点変異・構造変異同時導入法を開発した。この手法を用い175 g/L 2,3-ブタンジオール(BDO)存在下でも生育可能な高い2,3-BDO耐性を有する株の創製に成功した。また、2,3-BDO耐性株では、アミノ酸生合成に関連する遺伝子転写量が有意に増加しており、そのアミノ酸含量は元株の2.8倍であった。従って、アミノ酸を細胞内に高蓄積することで、2,3-BDO耐性が向上するという新たな知見を見出した。本技術は、酵母の様々なストレス耐性の向上に応用可能な有用な技術であると考えられる。
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