これまでの金属クラスター化合物研究では、合成には中性・アニオン性(酸性)のチオール配位子のみが用いられ、合成の困難さから塩基性・カチオン性の配位子を用いた合成例はなかった。本研究では、これまでに確立してきたオリジナルの合成戦略を応用し、ピリジル基などの塩基性置換基を有する分子組成金属クラスターの合成に初めて成功し、表面に機能性部位を持つ超分子素子としての金属クラスターの利用展開が視野に入った。通常の表面が中性・酸性の置換基を有するクラスターとは異なり、ピリジル基とNaカチオン間の相互作用に基づくユニークな層状パッキング構造を有していることが示された。また、表面で全てカチオン電荷で覆われた分子性材料としては最も電荷数の多い、金クラスター化合物Au144(カチオン性配位子)60の新規合成に成功した。本研究でカチオン性・塩基性金属クラスター化合物の合成に成功したことで、静電相互作用(アンモニウム、ピリジニウムなどのカチオン性置換基)や配位結合(ピリジル基、アミノ基などの塩基性置換基)を利用し、超分子化学系への展開することが可能となった。 今後は、塩基性金属クラスターが持つ有用な表面反応性を利用し、金属クラスターの構造を保ったまま表面で有機化学反応を行うことで、超分子化学系への展開を指向した様々な表面官能基を有する金属クラスター群を新規合成し、金属クラスター表面の多岐に渡る機能化を可能とする新しい抜本的な手法を確立する。
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