研究課題/領域番号 |
18K14079
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木山 治樹 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (80749515)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 量子ドット / 電子スピン |
研究実績の概要 |
GaAs量子ドット中の電子スピンについての完全ベル測定の実現を目指し、その要素技術としての多値スピン読み出し実験へ向けた試料作製、測定系構築およびその評価を行った。 測定系構築については、熱励起の影響による読み出しエラーを最小限にするためのフィルター兼熱アンカーとして銀ペーストを用いたパウダーフィルターを採用した。DC測定で電子温度60mKが得られ、比較的低い電子温度が得られた。現在、スピン緩和に比べて十分高速にドット電荷状態の検出を行うための高周波反射測定系を構築中である。 上記の予備実験に加え、多準位系のスピン緩和ダイナミクスに関連して、過去の研究で得られた高スピン状態の速いスピン緩和について理論的考察を行った。研究協力者による数値シミュレーションによって、実験結果が定性的に再現された。次年度は速いスピン緩和の起源についてより詳しい考察を進める予定である。 また、InAs自己形成量子ドットは強いスピン軌道相互作用を用いた高速スピン操作や光子との高効率な結合が期待され、量子情報分野への応用も期待されている。本研究ではInAs量子ドットでのスピン読み出しにも新たに着目し、その第一段階である単一電荷検出に、当初計画へ向けた実験準備と平行して取り組んだ。InAsドットの近傍にある別のドットを電荷計として用いることによって、単一電荷検出に成功した。また、ソース-ドレイン電極とドット間のトンネルレートが測定バンド幅以下となるクーロンピークにおいて、単一電子トンネリングの実時間観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高周波反射測定に使用するための冷凍機用同軸線の導入が、予算の都合で遅れてしまった。しかし、作製した試料の低温での特性は良好であり、遅れはすぐに取り戻せるものと思われる。また高速測定ができなかったために、InAs量子ドットにおいて、スピン読み出しの必須技術である電荷検出に取り組み、単一電荷検出および単一電子トンネリングの実時間検出に成功した。当初計画とはやや異なるが、本研究で取り組んでいるスピン読み出し技術を、より広汎に応用できる可能性を見出したという意味で進展があったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の計画に沿って、高周波反射測定系の構築を完了した後、二電子スピンの4つの固有状態全てのシングルショット読み出し実験に取り組む。また平行して、ベル測定における単一スピン操作のための微小磁石を備えた横型ドット試料を作製し、電子スピン共鳴によるスピン操作を試みる。 予想される課題として、高周波測定系を有する希釈冷凍機の利用可能期間の制限が考えられる。その場合の対応策として、他の冷凍機における高周波測定系の構築、あるいはInAsドットのスピン読み出し実験に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では所属研究室所有の任意波形発生器の使用を考えていたが、今年度それが故障してしまった。新しい製品の方が修理費用よりも安価であったため、研究経費の計画を変更して購入した。残りの経費の使途として、ソースメータ(約60万円)の購入を計画している。今年度の経費残額では賄えないため、次年度分と合わせて購入する。
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