研究課題
当該年度は、まず高次の表面弾性波を効率よく発生させることができるSplit52型を含む複数の異なる種類のIDTの試作を行い、その室温における評価を行った。Split52型のIDTについては、これまでの先行研究で広く用いられてきた3GHz程度の周波数まで高次の表面弾性波の発生を確認した。このIDTを用いれば、従来のように正弦ポテンシャルのみではなく、のこぎり型やデルタ型など様々なポテンシャル形状の表面弾性波を発生させ、電子の移送実験を行うことが可能となる。また、従来型の単一櫛のIDTについては、5GHzまでの表面弾性波の発生が確認できた。これにより、従来の表面弾性波と比較して、より強い閉じ込めを持つ表面弾性波ポテンシャルを発生させることが可能となる。さらに、表面弾性波の発生効率を上げるため、単一方向に向けて表面弾性波を発生させることができる構造を試作し、測定を行った。この結果については、現在解析を進め、より最適な構造について検討を行っている。上述の表面弾性波の発生部分に関する基礎研究と並行し、表面弾性波を用いた単一飛行電子の制御技術の研究を行い、複数の単一電子源・単一電子検出器を組み合わせた複合回路において、単一電子の移送方向を制御する技術を開発した。その成果は、これまでの研究で得られた異なる単一電子源を同期するための技術などと合わせ、現在論文に投稿中である。当該年度は2年目に行う予定の単一飛行電子のコヒーレントな制御実験を行うために必要な希釈冷凍機の配線、コールドフィンガーの設計、及び作製なども行った。
2: おおむね順調に進展している
当該年度で表面弾性波を発生させるための櫛形電極IDTを試作、そしてその評価を行うための体制を十分に整えることができた。また、評価の結果から新たに採用予定のIDTの構造も決定しつつある状態まで研究が進んでいる。さらに、本研究では、複数の制御ゲート(~50本)を極低温で操り、さらに、GHz帯の高周波電圧を効率よく試料に印加することが可能な特別な実験セットアップが要求されるが、それらの準備を当該年度でおおむね完了させることができた。これらのことから、次年度はより実践的な単一飛行電子制御の実験に取り組むことが出来、また、実験で得られた知見をフィードバックし、次の試料をスムース作製することができる。そのため、研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
今後は、まずIDTの試作・評価をさらに進め、単一飛行電子制御に用いる構造を決定する。その後、最適化されたIDTを持つ量子電流生成のための試料を作製し、当該年度にセットアップした実験系を用いて測定を行う。測定においては、新規に採用したIDTの特性を活かし、複数の周波数の表面弾性波を組み合わせることで、様々な形状のポテンシャルを実現し、形状の違いによる量子電流の安定性を比較することで、安定性を阻害する要因についての考察を行う。量子電流の発生実験の結果からのフィードバックを得て、単一飛行電子のコヒーレント制御に向けて最適なIDT構造についての検討を行い、試料を試作し、残りの期間でコヒーレント制御の実証実験を行う計画である。
予算執行の結果、端数として千円以下の余りが生じた。翌年度に合わせて消化する予定である。
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Nature Communications
巻: 9 ページ: 2811 1-6
10.1038/s41467-018-05203-7