当該年度は昨年度から引き続き、高次の表面弾性波を効率よく発生させることができるSplit52型IDTの最適化、及び評価を行なった。高次の表面弾性波を混ぜ合わせると、通常の正弦波型のポテンシャルの波だけではなく、鋸型やデルタ型といった異なる形状のポテンシャルの波を発生させることが可能となる。それらを単電子ポンプや単一電子移送に応用することでより忠実度の高いデバイスの実現につながるものと考えられる。昨年度までの成果で高次の波の発生は確認できていたが、一方で、従来のTiとAuの電極を用いて作製されたIDTでは高次の波の周波数が定数倍からずれる問題があり、効率良くそれらを混ぜ合わせることが困難であった。当該年度は電極の材料をTiとAlに変更し、IDTを作製することで、きっちりと定数倍の位置に高次の共鳴を発生させることに成功した。また、そのIDTを用いて実際に室温で複数の周波数を混ぜ合わせ、鋸型やデルタ型といった表面弾性波を発生可能であることを確認した。 単一飛行電子の量子制御に関する実験については、昨年度までの研究で複数の単一電子源を同期させるための技術や単一飛行電子の移送方向を制御する技術の実証に成功していた。当該年度は、単一飛行電子のコヒーレントな制御の実現に向けて、理論家との共同研究を行い、コヒーレント制御の実現には飛行電子の閉じ込めの強化が重要であり、表面弾性波の強度を2倍から3倍程度向上が必要であるという示唆を得た。この成果を昨年度までの成果と合わせ、Nature Communicationsに論文として出版した。
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