研究実績の概要 |
カーボンナノチューブを鋳型に用い,遷移金属カルコゲナイド系の新奇ナノワイヤー,ナノリボンの高収率・高品質合成に成功した。特にナノワイヤーでは,理論上でしか予想されていなかった連続的な「ねじれ」の観察に世界に先駆けて成功した。この成果はすでにNano Lett.誌にオンライン公開され,掲載号(本年度8月号)の表紙を飾る予定である。また,これまで未踏だったNb系を含む6種類のナノリボン(MoS2, MoSe2, WS2, WSe2, NbS2, NbSe2)の精密合成にも成功し,遷移金属カルコゲナイドナノリボンの系統的な構造・物性評価が可能になった。さらに重要な成果として,カーボンナノチューブの代わりに窒化ホウ素(BN)ナノチューブを用い,精密に合成したMoS2ナノリボンの光吸収(EELS)スペクトル測定に成功したことが挙げられる。BNナノチューブは6 eVもの巨大なバンドギャップをもつ絶縁体で,カーボンナノチューブと違って内包物の光学スペクトルに干渉しない。これにより,これまでは難しかったナノチューブ内部の詳細な分光評価が可能になり,ジグザグ型MoS2ナノリボンの電子状態がMoS2の単層シートとは異なることを明らかにした。また,以上の成果に関連し,優秀講演賞(分子科学討論会)やJournal of Materials Chemistry A賞(フラーレン・ナノチューブ・グラフェン総合シンポジウム)など,4件の学会賞も受賞している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の研究計画では,遷移金属ダイカルコゲナイド(TMD, MX2)ナノリボンのみを研究ターゲットとして合成を目指していたが,それに加えて新奇ナノワイヤーの合成にも成功した。このナノワイヤーは「遷移金属モノカルコゲナイド(TMM, MX)」と呼ばれ、理論的には30年以上前から研究されている針状物質(量子細線)である。TMMナノワイヤーは特有のねじれ構造を持ち,ねじれ角の違いによって電子状態が変化することが予想されている(I. Popov et al., Nano Lett. 2008)。また,ナノスケールの微小デバイスの配線としての応用も期待されてるが、凝集して束になりやすい性質があるため、実験研究は進んでいなかった。本研究計画では,TMDナノリボンの合成に取り組む中,偶然このナノワイヤーの多量合成に成功し,さらに理論上でしか予想されていなかったねじれを世界に先駆けて電子顕微鏡で撮像することに成功した。この研究成果はすでにNano Lett.誌にオンライン公開され,国内外の多くのメディアでも取り上げられている。以上の理由により,本年度の研究は,当初の計画以上に進展していると言える。
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