金属ナノギャップ間の単一分子の伝導度を計測する単分子計測は、分子デバイスの作製や高感度の生体分子の計測技術の開発のために研究されている。従来の単分子計測における解析手法は伝導度ヒストグラムを作成し、平均的な伝導度を求めるのみだった。そのため、複数種の分子の識別が難しく、計測技術としての実用化を阻んでいた。本研究では単分子の電流計測システムを構築し、単分子計測における電流シグナルの形状を機械学習を用いて解析し、ナノギャップ中での構造変化による伝導度変化を解析に用いることにより、分子種を単分子レベルで識別する技術を開発した。本研究で開発した単分子シグナル識別技術は様々な生体分子に対して適用可能であり、神経伝達物質、DNA修飾塩基、DNA塩基長の識別などを実現した。これらの研究成果は、従来の平均的な伝導度による識別だけでは不可能であり、本研究によりナノギャップ間での構造変化を検出することが可能になったため実現できた。シグナルの電流変化を解析することにより単分子の識別精度が向上したことから、単分子計測における分子固有のナノギャップ中における構造変化も単分子シグナルを形成する重要な要素であると明らかにした。本研究で開発した技術により、生体分子の単分子レベルでの検出・識別が可能になり、神経疾患や癌などの早期発見のための技術や、生体分子の働きを調べる技術の開発に寄与する。また、種々の分子への適用が期待され、単分子計測の実用的な利用を推し進める結果である。
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