昨年度は各種材料合成と精密位置制御分子修飾のためのスポット修飾法を開発しており、今年度は合成した分子材料の機能評価、スポット修飾の効率化および分子材料の酸化鉄磁性ナノ粒子(MNP)への実装とその機能評価を予定した。合成した分子材料のうち、標的認識分子および標的捕捉分子はその機能を評価し、期待した結果が得られた。続いてスポット修飾の効率化として、バッチ式からフロー式への転換のためにスポット修飾挙動を詳細に検討したところ、MNP表面の一次修飾剤(本研究ではクエン酸)が不安定化し脱離する場合があることを見出した。一次修飾剤はMNPへ親水性を付与し、MNP表面に分子材料を化学修飾するための足場としての役割も担う。つまり一次修飾剤の脱離は、修飾した分子材料の脱離をも意味する。今回用いたクエン酸修飾MNP(MNP@CA)は近年盛んなナノ粒子のバイオ応用研究における主要な一次修飾ナノ粒子であるが、一次修飾剤の脱離に関する知見は知られていない。したがって、今回発見した一次修飾剤の不安定化現象は今後のナノバイオ研究(あるいは過去の研究も含む)に広く影響を及ぼす重大な問題である。申請者は、予定した計画よりもこの現象の解明を優先し、はじめに一次修飾剤の定量的な安定性評価法を開発した。評価の指標として、スポット修飾補助剤表面に固定したMNPの残存率を利用した。これは、スポット修飾の過程で得られる、異なる修飾剤を用いた場合も同一の方法で分析できる、修飾剤由来の溶媒親和性の違いが影響を及ぼさない、といった複数の利点がある。この方法によりMNP@CAの一次修飾剤の定量的な安定性評価が可能となり、リン酸緩衝液中(例えば30 mM、pH 7.4、37℃)や特定の有機溶媒中で特異的に不安定化することを明らかとした。今後は、さらなる一次修飾剤研究とともに、細胞内サンプルリターン材料の開発も引き続き行う。
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