近年、生物学・薬学の分野において単一細胞をマイクロサイズの微小液滴内に封入し、細胞の分泌物や増殖スピードなどを解析する技術が1細胞解析の重要なツールとして注目されている。単一の細胞を液滴内で培養することにより、例えば、細胞からの分泌物を1細胞レベルで計測することが可能になる。さらに、液滴はマイクロ流路中に流して高速に操作することが可能なので、これらの解析を短時間で大規模に行い、かつ有用な細胞を分取することが可能になる。しかしながら従来の技術では、液滴の大きさと、1秒間に分取可能な液滴数がトレードオフの関係となっており、液滴マイクロ流体工学技術の応用範囲は制限されていた。すなわち、高速で分取できる小さな液滴では液滴中の栄養分が十分ではないため、細胞を活き活きとした状態で培養することができず、調べたい細胞が液滴内ですぐに死んでしまったり、分泌物を十分に生産できなかったりするといった問題があった。一方で、液滴が大きくなると表面張力の影響が小さくなり壊れやすくなるため、高速で液滴を分取することができなかった。そこで本研究では、大きな液滴の分取を従来とは桁違いに高速にできる技術を開発した。本技術では、液滴に加える力のタイミングと位置を巧みに制御することにより、壊れやすい大きな液滴を、優しくかつ高速に操作することを可能とし、従来比20倍の高速分取を実現した。さらに、本技術が得意とする100pL以上の大きさの液滴内において、藻類細胞が自由に運動できること、その藻類細胞や白血病細胞の生存率が上がること、ハイブリドーマ細胞の抗体産生量が上がることを示した。さらに本技術を用いて、母集団の約2%程度しか存在しない増殖スピードの遅い微生物を単離する原理実証を行い、本技術の有用性や汎用性を確認した。
|