2021年度は、昨年度から引き続き臓器モデルとして血管付き肝臓モデルの構築及び評価に注力した。肝臓モデルについては、ハイドロゲル包埋法やスフェロイド法などで構築された三次元肝組織でアルブミンやシトクロムP450といった肝機能が高く発現することが報告されている。しかしながら、このように高い機能を有する三次元肝組織においても、in vivoと比べればその機能は依然低い。この一因として考えられるのは、これまでに考案された三次元肝組織に洞様毛細血管(類洞)が存在しないことである。そこで、2018-2020年度は培養デバイスを用いて三次元肝組織に送液ポンプを接続し、培養液を灌流することで、肝組織中 の血管内皮細胞の自己組織化により毛細血管を形成する戦略をとった。この結果、生体の類洞に類似した構造を形成し、また肝機能を評価することに成功した。さらに、2次元培養との遺伝子発現の比較を行った。RNA-seqを用いた遺伝子発現解析の結果、本研究の手法によって3次元化することで多くの薬剤代謝関連遺伝子(Phase I~III、及びnuclear receptor)の発現が向上することが分かった。2021年度はさらに構築した肝組織について、プロテオーム解析のための前処理方法を確立するとともに、実際にプロテオーム解析を行った。この結果、RNA-seqによって得られた遺伝子発現情報と大きな齟齬なく、3次元培養によって薬剤代謝関連タンパクの発現向上が確認された。この成果は2次元培養との発現情報の比較という観点のみでなく、「構築した組織を使用していかにプロテオーム解析を行うか」というプロトコール確立の観点から、本技術の潜在的ユーザーに有用な結果である。
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