研究課題
今年度はまず、グラフェントランジスタで計測可能でかつ汎用的な酵素反応系を探索した。先に見出した酵素・基質系はグラフェントランジスタでの検出定量が可能であったものの、反応産物が不安定であったために、継時的に安定的な計測を行うことが困難であった。今年度、幅広い酵素・基質系の探索を行い、安定性の問題を解決する新たな酵素・基質系を見出した。本反応系は酵素免疫法でも利用されているものであり、強酸・強塩基などの抗原抗体反応を阻害する反応産物を生成することなく、グラフェンにホールキャリアを誘起し、電流計測が可能であった。電流計測により、酵素濃度の定量にも成功している。次に、酵素反応系を計測するのに適したデバイス構造を構築するため、従来用いてきた剥離グラフェンによるデバイスに代えて、化学気相成長法により大面積のグラフェンを合成し、これを加工して、1チップ上にアレイ化したグラフェントランジスタを作製した。このようなデバイスアレイは、同一反応条件下での多数のトランジスタのデータを取得することを可能にするため、データの平均化による精度の向上が期待できる。さらに、このようにして作製した大面積のデバイスに適した、矩形上のマイクロウェルを作製し、蛍光色素を用いた観察によって、ウェル内に溶液の封入が可能であることを示した。次年度は、上記の酵素・基質反応系とマイクロウェルを組みあわせて、酵素免疫法によるターゲットの検出を試みる。ターゲットとしてはインフルエンザウイルスを想定している。
2: おおむね順調に進展している
申請時の計画通り、計測に適した酵素・基質反応系を見つけ、反応計測に適したデバイス構造を開発することが出来た。
計画の最終年度である次年度は、今年度見出した酵素・基質反応系とマイクロウェルを組みあわせて、酵素免疫法によるインフルエンザウイルスの検出を試みる。ウイルスの大きさは生理的条件下におけるデバイ長よりもはるかに大きく、ウイルスの表面電荷を直接検出する際にはウイルス表面の極一部の電荷しか検出されない。しかし酵素免疫法を用いれば、ウイルス表面上に多数の酵素抗体複合体を結合できるため、より安定的な計測が期待できる。
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