本研究では、グラフェンのユニークな特性を利用した生化学研究のための新たなプラットフォーム"Lab on a graphene-FET"構想の一環として、マイクロウェルと複合化したグラフェントランジスタによる高感度バイオセンシングを試みている。本センシング技術は「酵素反応産物による電気的な生体分子検出」と「反応系のマイクロメートルスケールへの封じ込め」を利用することで、電気的なバイオセンシングにおいて普遍的な課題であったデバイ遮蔽の問題を解消している。最終年度である今年度はまず、胃がんの病原菌Helicobacter pyloriをマイクロウェル内に抗体で捕捉した上で、ウレアーゼ反応による検出を行った一連の結果を論文化し、Nano Letters誌にて報告して、プレスリリースを行って英字webメディアでの報道が8件あり、Altmetric score 70 を得ている(2020/5/2時点)。また、前年度に見出した汎用的酵素反応系をウイルスの酵素免疫法による計測に応用した。具体的には、ウイルス表面のスパイクたんぱく質に対する抗体を用いたサンドイッチ法を採用し、二次抗体に修飾された酵素の反応産物をマイクロウェル中に濃縮してグラフェントランジスタで検出した。これにより、ウイルス捕捉時に特異的な、反応進行に伴って経時的に増大する電気的シグナルが得られた。これらの成果を通じて、"Lab on a graphene-FET"による酵素免疫法の原理実証に成功し、より広範な検出ターゲットへの応用の道を拓いたと考えている。
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