研究課題/領域番号 |
18K14115
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研究機関 | 分子科学研究所 |
研究代表者 |
伊澤 誠一郎 分子科学研究所, 物質分子科学研究領域, 助教 (60779809)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 有機太陽電池 / 界面 / 移動度 / 電荷分離 / 電荷再結合 / ドーピング |
研究実績の概要 |
有機薄膜太陽電池は、低製造コスト、柔軟性などの多くの利点から、将来のエネルギー変換デバイスとして近年大きな注目を集めている。電子ドナー(D)である半導体高分子と、電子アクセプター(A)であるフラーレン誘導体を薄膜中で混合したデバイス構造が広く用いられ、その界面で励起子が電荷に分離されることで発電する。これまで主に半導体高分子材料の開発によりその光電変換効率は向上してきたが、未だ単結晶SiやGaAsなどの無機太陽電池には及ばない。光電変換効率を制限する最大の原因として、D/A界面で起こる電荷分離・再結合過程に関連したエネルギーロスが存在し、出力電圧を大きく失うことが挙げられる。しかし、この制限がどのような機構で決まっているかは明らかでなく、そのためのD/A界面構造と電荷移動挙動の相関の精密な解析も行われていなかった。 そこで本研究では超高移動度分子を用いて界面構造を制御することで、そのナノ構造と光電変換素過程との関連を明らかにすること、また有機薄膜太陽電池のデバイス性能の向上を目指して研究を行っている。今回、高移動度、かつ高結晶性のD・A材料を用いて、電荷再結合を抑制した。分子構造からD/A界面近傍の結晶性を変化させたところ、界面近傍の結晶性が高い太陽電池において、非常に小さな開放電圧のエネルギーロスを実現した。 さらに電子・ホールともに高移動度の両極性分子を用いて、単一の有機半導体材料のみでも高効率な光電変換の実現も目指した。その両極性分子にp, nドープしてpn接合を形成した、pnホモ接合有機太陽電池において、内部量子収率30%という単一材料中における高い電荷分離効率を実現した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今回、高移動度のドナー・アクセプター材料を用いることで、有機太陽電池中での電荷再結合を抑制し、結果的に開放電圧のエネルギーロスを抑制した。これは高移動度材料のもつ、電荷の非局在化、高い結晶性、低いトラップ密度という特異な性質が、有機太陽電池の再結合抑制に有効であることを示した。これは有機太陽電池をさらに高効率化させるための分子デザイン指針を示す重要な成果である。加えて、電子・ホール共に高移動度の両極性の有機半導体分子を用いて、p, nドープをすることで、単一有機半導体材料における高い電荷分離効率を実現した。これまで有機半導体においては、電荷分離にはドナー・アクセプターの二種類の材料が必須であると考えられてきた。この結果は、有機半導体においても界面のエネルギー構造を制御すれば、無機太陽電池と同様に一つの半導体材料のみにおいても電荷分離が可能であるということを示した。これはpnホモ接合有機太陽電池という新たなデバイス構造の可能性を拓く結果である。これらの研究成果は、既に学術誌に投稿済みである。このように本研究は期待以上の成果が得られており、さらに今後の研究の進展が大いに期待される。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究結果で、デバイス性能向上のためには高移動度材料を用いてD/A界面近傍の結晶性を向上させることが重要であるとわかった。さらに単一の有機半導体を用いた場合では、両極性の材料を用いることが、高効率な電荷分離に重要であることがわかった。今後は、電子・ホールともにさらに高移動度でバンド伝導性を示す有機半導体材料を用い有機太陽電池の界面設計を行っていきたい。これらの材料は単結晶においてこれらの特異的な性質を示すため、有機単結晶取り扱い技術、精密ドーピング技術を習得し、無機太陽電池に迫る革新的な有機薄膜太陽電池の実現を目指す。
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