研究課題/領域番号 |
18K14116
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
井口 亮 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 磁性・スピントロニクス材料研究拠点, 研究員 (40707717)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピンペルチェ効果 / スピン流 / サーモリフレクタンス / スピンカロリトロニクス |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、伝導体/磁性体接合でスピン注入に伴って温度変化を生じるスピンペルチェ効果について、時空間データを最大限に活用した高感度・高空間分解測定を実現し、その発現機構や熱物性を調べることにある。スピンペルチェ効果による温度変化は接合界面に沿った方向では局在した特異な分布を示すが、接合界面に垂直な方向に関しては従来の研究では何ら情報が得られてこなかった。注入されたスピン流は接合界面に沿って伝搬するものであるため、この欠けている情報こそがスピン流による熱流生成現象の発現機構を明らかにする上で必要なパラメータとなる。本研究では、反射率変化に基づく温度測定技術であるサーモリフレクタンス法をスピンペルチェ効果測定に取り入れることで、高時間分解能・高空間分解能での温度変化計測を試み、スピン流がその伝播方向で示す熱物性(特に伝搬の長さスケール)を明らかにする。これにより、スピン流-熱流変換の物理の体系的な理解と高いスピンペルチェ効果を発現するための指針を得ることを目指す。 本年度は、サーモリフレクタンス測定用の光学系を構築し、スピンペルチェ効果を駆動するための電流と同期させたロックインサーモリフレクタンス計測を実現した。複数の検証実験を行い、スピンペルチェ効果による温度変化の測定が可能なことを確認した。この検証実験において、スピンペルチェ効果による温度応答は予想以上に周波数依存性が大きく、時間応答からスピンペルチェ効果による熱生成の過程が追跡できる可能性が明らかとなった。実際、より高速応答まで測れるよう系を改良することで所望のデータが得られ、現在その熱的な特性の解析を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究遂行にあたっては、伝熱工学で熱伝導評価に多く用いられてきたサーモリフレクタンス法を、スピン流を含む熱電効果(スピン熱電変換)測定に適用する必要があった。本年度は、光学系の構築と最適な光源波長・駆動電流との電気的な絶縁層を含む光反射層の探索を終え、スピンペルチェ効果の測定が実現できた (学会発表済み)。ロックイン計測によって周波数ドメインでの広帯域測定を行い、従来の最大周波数100Hz程度を大きく超える測定を実現した。これにより、スピンペルチェ効果による温度変化は、マイクロ秒程度の反応時間となることが期待されることがわかった。解析モデルを立ててスピン流の長さスケールを見積もることで、スピン熱電変換における基礎的でありながら未踏であったパラメータの評価が実現できる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
スピンペルチェ効果の温度変化が示す時間応答が、スピン流による熱生成過程に由来することを示すために、熱伝搬およびスピン輸送を組み合わせた現象論モデルによる解析の枠組みを構築する。モデルの妥当性を検証するため、リファレンスとして熱源特性が予測可能な異常エッチングスハウゼン効果を用いた対照実験・解析を進める。以上により、電子状態に由来する“スピンペルチェ係数”の定義と、試料の質に敏感な長さスケールの分離を実現して、スピン流の示す熱物性を明らかにする。一方で上記モデル解析においては応答時間から長さスケールを導き出すため、仮定するパラメータに依存する部分が多い。より直接的な長さスケールの観察に向けて、引き続きサーモリフレクタンスを用いたサブミクロンスケールの空間イメージングにも取り組み、確実な研究遂行を狙う。広帯域の周波数測定結果の試行的な解析から、ミクロンスケールの熱源サイズが期待され、当初想定通りイメージング計測が適用可能な領域にある。すでにサーモリフレクタンス法を用いた高感度な温度応答検出のためのノウハウは蓄積しており、円滑に光学測定系のイメージング対応を進められる見込みである。
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