本年度は、Ge薄膜を作製し、微小なインダクタ開発を目標にした。前年度までは分子性結晶であるb-(meso-DMBEDT-TTF)2PF6を利用して、インダクタンス測定の研究を行い、これまでよりも高い周波数での動作の実証と、より大きなインダクタンスの発現に成功してきた。しかし一方で課題となったのは、低温の実験であり、室温では動作しないという点である。そこでGeの薄膜を作製することで、室温で動作可能なインダクタ開発を目指した。 まずSi基板上にGe薄膜をスパッタ法によって作製した。X線回折装置によって、多結晶膜が成長できていることを確認した。さらにこの膜を利用して、IV測定を行ったところ、ほぼ直線上の線形な関係が現れた。この結果はSi基板の熱伝導の高さによって、熱が逃げGe薄膜が温度上昇していないためだと考えられる。そこで熱伝導率の低いSiO2のガラス基板に変えて、Ge薄膜の作製を行った。このGe薄膜についてもX線回折を行い、多結晶膜が作製できていることを確認した。このときこのGe薄膜を用いてIV測定を行ったところ、非線形なIV曲線が現れた。この結果は微細なインダクタ作製のためには、薄膜だけでなく、基板についても考慮するべきであることが明らかになった。さらに基盤をSiNのメンブレン基板を用いてGe薄膜の作製を行ったところ、SiNメンブレン基板の耐熱温度の領域では結晶化できなかった。Ge薄膜をサスペンドした素子を作製するためには、メンブレン基板を用いる方法ではなく、エッチングによって作製すべきであることが明らかになった。
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